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私は死んでから、あの世で死神の仕事をしている。
寿命を迎えた人の元へ迎えに行き、身体から魂を抜き取りあの世へ連れていく。私がその身体に触れれば、その人はもう帰らぬ人となる。
いつからこの仕事をしているか、もう覚えていない。
ある時また1人の魂を迎えに行くと、そこには見覚えのある家があった。
中には全て2人分の生活用品が揃えてあり、ただ寝室にだけは、大きなベッドがひとつあった。
そしてそこには、幾つもの空の薬瓶、輪にされた縄と、血まみれのカッター、そして───げっそりとした愛おしい貴方の姿があった。
貴方の姿を目にした途端、生前の全ての記憶が蘇ってきた。
私はこの家で、彼女と2人で暮らしていた。この家は、私たち2人の愛の巣であった。
ある日2人で帰り道を歩いていた時、暴走したトラックが彼女を目掛けて突進してきた。私は彼女を助けようと彼女の身体を突き飛ばした。
──彼女は軽傷で助かった。が、私の命が代償となった。
その後ずっと、彼女は自分のせいで私が死んだんだと、自分を責め続けた。そして同時に、私がいない世界など生きていても意味がないと、何度も自殺未遂をしてきた。だが、何度やっても失敗した。
「彼が私に死ぬなって言ってる。」そう自分に言い聞かせて生きようとした。しかし、この家には私との思い出が多すぎた。
そして今──私の目の前で死のうとしているその愛おしい姿を、ただ黙って眺めているわけにはいかず。縄の輪に首をかけ、椅子を蹴ろうとした彼女の足が椅子から離れる直前に、縄を引きちぎった。
床に転んだ彼女は俯き、「もう…もう良いでしょ。早く私をあなたのところに連れて行って。あなた無しで一人で生きていたくなんかない…!そっちの世界で、私をまた抱きしめて…」と泣きじゃくりながら訴える。そんな彼女を、思わず抱きしめた───抱きしめてしまった。
触れた身体はゆっくりと床に倒れ、腕の中にある彼女の魂は、その時初めて私と目が合った。しかし──
彼女のハイライトを失った目に私が映っても、彼女がまたあの愛おしい笑顔を向けてくれることはなかった。───彼女は命が尽きたことに気づいていないだけでなく、直前の生前の記憶もすっかり抜け落ちている。床に倒れている身体の方が抜け殻なはずなのに、腕の中に抱えた彼女の魂の方が抜け殻のようだった。
私は涙を一筋流しながら彼女の額に一度だけ口付けを落とし、あの世へと連れて行った。途中、なにか柔らかいものが頬に触れたような気がするが、きっと気のせいだろう。あの世へ到着すると彼女は、私を一度も振り返ることなく、死者の行列の中に紛れて行った。