それから数週間後の日曜日、朝倉家に宅配便が届いた。
宛先は良輔の母親。
そして差出人は、良輔の元妻・凪子からだった。
良輔の母は一瞬不審に思う。
しかし今日が自分の誕生日だったので、その届け物の意味がわかったようだ。
(凪子さんったら離婚しても私の誕生日を覚えていてくれたのね。そしてプレゼントまで)
良輔の母親はそんな事を思いながら荷物をダイニングまで持って行き、テーブルの上で開けてみた。
中には老舗デパートの包装紙に包まれた箱が入っていた。
そして蓋を開けてみると上品なラベンダー色のショールが入っていた。
(凪子さんたら私の好きな色を覚えていてくれたのね)
思わず母親の目頭に熱いものがこみ上げて来た。
息子の不貞により別れた元嫁が、こんな素敵な誕生日プレゼントを贈ってくれたのだ。
嬉し涙が出るのも無理はない。
そしてこんな思いも溢れてくる。
(本当に凪子さんには申し訳ない事をしてしまったわ。今思えばあの子は誕生日や父の日母の日のプレゼントを一度も忘れた事がなかったのよ。共働きで忙しいのにいつも素敵な贈り物をくれたわ。それに比べてあの絵里奈はプレゼントどころか感謝の気持ちさえまともに示した事がないんだから。まったく親の躾がなっていないのかしら)
その時ぐっとこらえていた不満が一気にこみ上げてくる。
息子の子を妊娠してくれている若い嫁の為に、そして初孫の為に、良かれと思いあれこれ世話をやいているというのに、絵里奈は当然だと言わんばかりの顔をして口先だけのお礼しか言わない。
今日だって義理の母の誕生日だというのに知らんぷりだ。
そのくせママ友とランチへ行ったり良輔と買い物へ行く際はルンルンして出掛けて行く。
つわりもおさまり、もう家事だって出来るはずなのにいつまでも義理の母親に丸投げだ。
母親の不満はそれだけにとどまらなかった。
息子夫婦にかかる生活費は、全て親世帯の負担だった。
息子が出向して給料が減ったのを知っているので、催促なんて出来ない。
二世帯にしたら、互いの家を行き来する事もないので節約なると思っていたが、それは全くの計算違いだった。
息子世帯にかかる食費や雑費が、親世帯の家計をかなり圧迫していた。
おまけにこの家を買う時には、前の家を売った資金だけでは足りなかったので貯金を崩して足した。
このまま家計を圧迫する日が続くと、自分達の老後も心配だ。
そして母親にはもう一つ不満があった。それは自分が一切遊びに出られなくなってしまった事だ。
以前はカルチャースクールで習い事をしたり、友人達と年に数回温泉旅行に行ったりそれなりに楽しんでいた。
しかし今はそれが一切出来なくなってしまったのだ。
それでも今はぐっと我慢している。それも全て孫の為なのだ。
良輔の母は一度噴出した不満を一度胸の中に押し込めると、素敵なショールを胸に当ててみた。
その時ショールの間から白い封筒が落ちた。
(手紙かしら?)
母親はそれを手に取ると、中に入っていた手紙を出して読み始める。
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お義母様、すっかりご無沙汰しておりますがお元気でいらっしゃいますか?
ふと今月はお義母様のお誕生日だという事を思い出し、ちょうど銀座のデパートでお義母様の好きな色のショールを見つけたのでお届けする事にしました。
離婚の際は色々と辛い思いをさせてしまい本当に申し訳ございませんでした。
このプレゼントはその時のお詫びとしてどうか受け取って下さい。
良輔さんは既に新しいご家族もいらっしゃるでしょうから、元妻である私からの連絡はこれで最後にしたいと思います。
短い間でしたがお世話になりありがとうございました。
どうかいつまでもお元気で。
唐沢 凪子
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そこまで読み終えた良輔の母は、涙を流していた。
(一番辛かったのは凪子さんのはずなのに、離婚した後までこんな優しい気遣いをしてくれるなんて。本当に良輔は馬鹿だわ)
良輔の母親は思わずエプロンの裾で涙を拭う。
そして手紙をしまおうとした時『追伸』と書かれてあるのに気付きもう一度手紙を開く。
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追伸
浮気調査の際、調査員の方からこんな写真を貰ったのをふと思い出しました。
私にはもう必要ないのでお義母様へお渡しいたします。
写真は絵里奈さんが良輔さんと付き合っていた頃に撮られた写真です。
写真の男性は、当時絵里奈さんと同棲していた男性です。
つまり絵里奈さんは、この時二人の男性と同時にお付き合いをされていたようです。
お伝えするのを迷いましたが、私の良心が痛みどうしても隠しておく事が出来ませんでした。
どうか元嫁のおせっかいをお許し下さい。
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読み終えた良輔の母の手は小刻みに震え出した。そして視線を天井へ向けると叫んだ。
「良輔ーーーーーーーーーっ!」
コメント
1件
やった!やった!!凪子さんからの爆弾が炸裂💣 何が優しい嫁よ!!都合のいい時だけ凪子さんを持ち上げて💢😡 自分の愚息が選んだ絵里奈と良輔をせいぜい貶めるといいわ‼️