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その二ヶ月後、信也と凪子は都内の一流ホテルにいた。
今日は二人の結婚式が執り行われる。
老舗の人気ホテルなので式場の予約は先までいっぱい埋まっていたが、急遽キャンセルが出た。
そして慌てて準備をして今日の日を迎えた。
この日凪子は、信也が凪子の為に作ったウェディングドレスを着ていた。
信也は、凪子が離婚した直後からドレスの製作を始めていた。
凪子が望んだデザインを元に、自分なりにアレンジを加え最高の一着を作り上げた。
そのドレスを凪子に見せた時、凪子は感極まって泣いた。
凪子が今日着ているドレスは、首回りと腕の部分が上品なレースで覆われ肌を見せないタイプのクラシカルで厳かな雰囲気のドレスだった。
その上品なドレスは凪子にとても良く似合っていた。
先ほどまで花嫁控室にいた凪子の母は、信也が渾身の力を込めて娘の為に作ったクラシカルなドレスを見て感無量といった様子だった。
「凪子、本当に綺麗よ。良かったわね」
母は目尻に涙を浮かべながら言った。
その後凪子の両親は親族へ挨拶をしに控室を後にした。
そして今控室には信也と凪子、それに式場の介添人の三人がいた。
「このドレス、両親も凄く喜んでくれたわ。特に母は感激して泣いちゃうし……信也、本当にありがとう」
「ああ、あそこまで喜んでくれたら作った甲斐があるな。本当に良く似合ってるよ」
信也が頷きながら言うと、傍にいた50代くらいの介添人の女性も言った。
「本当にお似合いでございます」
「ありがとうございます」
凪子は少し照れたように笑った。
凪子の両親と信也はすっかり打ち解けていた。
結婚が決まってから今日までの間に、信也は二度も実家に足を運んでくれた。
一度目は結婚の挨拶、そして二度目は四人で温泉旅行に行った。
父は故郷の自慢の温泉へ信也を一度連れて行きたかったようだ。
父の誘いに信也は喜んで応じてくれた。
その旅行を機に、両親と信也はすっかり打ち解け家族となった。
一方、凪子も信也の実家へ挨拶に行った。
信也の両親はとても優しく穏やかで、凪子の事をあたたかく受け入れてくれた。
結婚が決まった後、信也の両親は凪子の実家へ挨拶へ行ってくれた。
その時凪子達は仕事の都合で一緒に行けなかったが、凪子の父は信也の時と同じように信也の両親を温泉に招待した。
そこで両家の親同士すっかり仲良しになったようだ。
一度目の結婚の時とは大違いで、全てが順調に進み二人はこの日を迎える事が出来た。
凪子はそこでハッと思い出したように言う。
「そういえばさっきお父さんがマスコミの取材がいっぱい来てるって言ってたわよね?」
「だな。なんで漏れたんだろう?」
「ほんと不思議。今日の事は身内しか知らないはずなのに」
そこで信也は腕時計を見るとオッという顔をした。
「じゃあ俺も親戚に挨拶をしてくるよ」
「うん、よろしくね」
信也は介添人の女性に「よろしくお願いします」と言ってから控室を後にした。
信也が出て行ってしばらくしてからノックの音が響いた。
「どうぞ」
凪子が返事をすると、ドアの向こうから先輩の江口と同期の麻美が二人揃って入って来た。
「キャー凪子綺麗ー!」
「おーっ、美しい!」
二人は感動した様子で凪子のウエディングドレス姿に見とれていた。
「二人とも来てくれてありがとう」
凪子は手を差し出して麻美の手を握る。
すると麻美はほんのり目を潤ませて微笑んだ。
「戸崎さんが凪子の為にデザインしたドレス、凄く素敵! 凪子に良く似合ってるわ」
「さすが一流デザイナーだな。本当に見事だよ」
江口も頷きながら言う。
「ありがとう」
凪子は少し照れながらお礼を言うと、二人に聞いた。
「ねぇ、外にマスコミが来ているって本当?」
「うん、凄くいっぱいいて僕もびっくりしたよ。結婚式は極秘だったんだろう? なのになんでわかったんだ?」
江口も不思議そうに言う。
「ほんと不思議。なんでわかっちゃったんだろう?」
凪子が困ったように言うと、麻美がニヤッと笑って言った。
「まあいいんじゃない? おめでたい事なんだもの。二人の幸せな様子をテレビで大々的に流してもらえば、きっとあの人達に対する最大のリベンジになるんだから!」
そこで凪子がハッとする。
「あーっ、もしかして麻美?」
「へへッ、バレたか!」
麻美はペロッと舌を出してから笑った。
「そういえば麻美の友達に女性週刊誌の記者がいたよね? その人にリークしたんでしょう?」
「リークはしていませーん。聞かれたから答えただけですぅー」
「それもリークのうちに入るんだよ!」
横から苦笑いをしながら江口が言った。
「えー違うでしょう? リークって言うのはこっちからあえて言う事だよーっ!」
麻美はムキになって江口に反論する。なんだか二人は息がぴったりだ。
良輔が会社からいなくなった後、凪子はお礼の意味を込めて麻美と江口を誘い三人で食事に行った。
江口と麻美はお互いに顔は知っていたようだが話すのはその時が初めてだった。
そしてその食事をきっかけに二人の関係は徐々に深まりつつある。
そんな二人のおしどり夫婦みたいなやりとりを聞きながら凪子がからかう。
「なんだか二人とも息がぴったり! 二人の結婚式には私も呼んでよね」
その瞬間二人の言い合いがピタッと止まる。
そして麻美が頬を赤くしながら言った。
「そんな訳ないじゃんっ!」
麻美が否定すると、江口はニッコリして言った。
「さすが凪ちゃん鋭いなぁ。まあ見ていて下さい。これから落としにかかりますから」
江口はそう言って凪子にウインクをした。
「キャーッ! 意外と早く結婚式に呼ばれたりしてー!」
茶化すような凪子の言葉に、更に麻美は真っ赤になっていた。
そんな麻美を隣にいる江口が優しい表情で見つめていた。
二人が控室を出て行った後、信也が戻って来て凪子に言った。
「ヤバいぞ凪子。外には凄い人数のマスコミだ」
「そんなに凄いの?」
「ああ、芸能人の結婚式並みだ。大丈夫か?」
「大丈夫って何が?」
「いや、またファッションショーの時みたいに膝がガクガクになるんじゃないか?」
その言葉に凪子は冗談じゃないわという顔をしてフフンと笑う。
「大丈夫よ任せて! 私はあなたがデザインしたウエディングドレスを着ているのよ。良い宣伝になるからモデル並みにちゃんと振る舞ってみせるわ。それに今日は私達の最良の日よ! みんなにこの幸せを見せつけてあげましょうよ」
凪子はスックと立ち上がって胸を張った。
その時二人の視線がぶつかる。
信也と凪子の心は、深い愛情と揺るぎない信頼でしっかりと結ばれていた。
その時ホテルのスタッフが二人を迎えに来た。
「そろそろ教会の方へ移動いたします」
信也は凪子の手を取りスタッフの後へ続く。
介添人は凪子のドレスの裾を持ちながら後から厳かについていった。
ホテルの出口へ行くと、想像していた以上に沢山の報道陣が待ち構えていた。
そのあまりの凄さに凪子が怯む。
「大丈夫か?」
「ダメかも」
「おいおい俺の知ってる凪子はいつも強気だぞ」
「うん、が、頑張るわ…」
二人が表へ一歩出た時、信也は歩みを止めて凪子と向かい合う。
その瞬間マスコミのカメラが一斉に構える。
信也は凪子に優しく微笑むと、そっと凪子に唇を重ねた。
そこで一般の見物客の間から一斉に歓声と拍手が沸き起こった。
それと同時にものすごい量のフラッシュがたかれる。そして更に人が集まって来た。
「Congratulation!」
「Wonderful!」
二人を見ていた外国人観光客がお祝いの言葉を投げかける。
唇を離した二人は、彼らに向かって笑顔で手を振った。
二人の幸せな様子は、各テレビ局の生中継で放映されていた。