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教室には、遥の姿はなかった。机の端に置かれたカバンが、彼がいないことを無言で告げている。数人の生徒が、ひそひそ声で囁き合う。
「今日も雑に扱われてたな、あいつ」
「うん、見てて面白いんだよね。あの必死な顔」
「でもさ、あいつって本当に頭おかしいんじゃない?」
「だって、なんでもやらされてるじゃん。体育でも、掃除でも……見てるだけで腹立つわ」
女子の一人が机の上で足を組み、目を細める。
「なんか、反応鈍くない? もっと嫌がればいいのに」
「そしたら、もっと遊べるのにね」
男子が肩をすくめ、笑みを浮かべる。
「でもさ、あいつの必死さがまた面白いんだよな。逃げても、やらされるんだもん」
笑い声が一瞬教室に響くが、すぐに低いささやきに戻る。
「ねぇ、昨日の掃除のときのあれ、見た? 床に顔押し付けられて……マジで最悪」
「うん、でもあれがまた、見てて笑えるんだよね」
「本当に、あいつって何やってもおとなしいよな。使いやすいだけだわ」
誰もが口を揃えて遥を見下ろし、心の中で笑い、嘲る。遥本人がそこにいれば、きっと声も出せずに押し黙るしかないだろう、そんな空気が満ちていた。
「なあ、次はどんなことさせようか」
「教室の掃除、まだ全部残ってるし……その後に、少し走らせるとか?」
「いいね、見てて楽しそう」
陰口はただの会話ではない。遥がいない間にも、彼の存在が遊びや競争の対象として消費されていることを示している。誰も止めず、誰も咎めず、笑いものとして話題にしている。
「まあ、あいつ、今日も帰ったら家でいろいろやられてるだろうし」
「家でも学校でも、もう完全に利用されてるってことか」
声には出さずとも、全員が遥の惨めさを確認し合うように頷く。教室の空気は冷たく、陰湿で、遥が戻ってくるまで、彼の居場所の不在が逆に笑いの材料となるのだった。