TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

華子の初恋

一覧ページ

「華子の初恋」のメインビジュアル

華子の初恋

第64話 - 第64話

70

2024年08月17日

#恋愛

#大人の恋愛

#大人ロマンス

#第3回テノコン

#ハッピーエンド

#純愛

瑠璃マリコ

シェアする

この作品はいかがでしたか？

70

瑠璃マリコ

プロフィール

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール

テラーノベルのスクリーンショット

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい！がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

ホーム

検索

通知

本棚

翌朝、華子は鳥の声で目覚めた。

昨夜華子はソファーで一度愛された後、その後ベッドでもたっぷりと陸に愛された。

これ以上ないというくらいに二人で濃密な時間を過ごした。そして疲れ果てた後華子は陸の腕の中でぐっすりと眠った。

そのお陰で華子は今身も心も充分過ぎるほどに満たされていた。

この日二人はギリギリまで寝ていたのでトーストとコーヒーだけの簡単な朝食を取る。

二人がコーヒーを飲んでいる時華子のスマホが鳴った。

電話は祖母からだった。

「ん？　出ていいぞ？」

「え？　う、うん……」

華子は少し戸惑いながら電話に出た。

「もしもしおばあちゃん？　うん元気よ、うん、うん、心配しなくても大丈夫よ。え？　その日ならいいのね、わかったわ。じゃあ今度の日曜日ね。はい、じゃあね」

話を終えた華子は電話を切った。

「おばあさんから？」

「うん、今度の日曜日にいらっしゃいって。陸はその日大丈夫？」

「もちろん」

陸は穏やかに微笑む。二人は次の日曜日に祖父母がいる華子の実家を訪れる事となった。

「お土産は陸が買って来てくれたアップルパイにしようかなぁ？」

「だったら当日店に寄ってから行こう」

華子はうんと頷くと嬉しそうに残りのトーストを食べ始めた。

その日陸は華子をカフェで降ろすとそのまま事務所へ向かった。

今日のシフトはパートの野村とこの日初めて会う豊田睦子だった。

睦子は土日限定のパートなので華子とはなかなか会うチャンスがなかった。

今日は平日のスタッフに急遽休みが出たので応援で来ていた。

睦子は華子が思っていたよりも高齢の70代の女性だった。

ショートカットのシルバーヘアで襟を立てた白シャツに黒のパンツをピシッと着こなしとても姿勢が良い。

お洒落なメガネをかけとても70代とは思えないほどのとても素敵な女性だった。

「びっくりしたでしょう？　こんなおばあちゃんがカフェで働いているんですものね」

「いえとても70代には見えなかったので驚いちゃいました」

「フフッ、実年齢は70代でも心は乙女よ！　だから恋バナもOKよ！　どうぞよろしくね！」

睦子はそう言ってウィンクをした。

（なんてチャーミングな女性なんだろう）

「こちらこそよろしくお願いします」

それから三人は和気あいあいと開店準備を始めた。

睦子はとても大らかで優しかった。

人生経験が豊富な女性は全ての行動に思いやりが溢れ包容力に満ちている。

（私もこんな風に前向きに年を取っていきたいな）

華子はまた人生の目標となる素敵な女性に出会えたので嬉しくて笑みを浮かべた。

この日はとても穏やかな一日だった。ランチタイムは混雑したがそれが一段落すると店内にものんびりした空気が漂う。

客足が途絶えている間はバックヤードでお喋りに花が咲いた。

睦子は昔キャビンアテンダントをしていた。だから接客がとても丁寧なのだ。

睦子はパイロットをしていた夫と結婚し5年前までは仲睦まじく連れ添っていた。しかし夫が急に他界した。

仲の良い夫婦だったので睦子は夫の死後数年引きこもり状態になる。

そして一昨年くらいから偶然このカフェに通うようになりその時にパートの募集を知り陸に直談判。

陸はすぐに面接をしてくれて即採用が決定した。

「社長の陸さんは年齢で人を判断しないから有難かったわ。それにね、面接した時にこう言ってくれたのよ。『元気に生き生きと働いていた方が亡くなったご主人も安心するんじゃないですか』ってね。それを聞いてジーンと来ちゃったわ」

（陸ったらなかなかやるじゃない）

睦子の話を聞いて華子はそう思った。

最近はシルバー世代のカフェ店員も徐々に増えているようだが、当時はまだ珍しく70代のカフェ店員がいるとたまたま聞きつけたテレビ局が取材を申し込んで来た。

陸がOKを出したので睦子は『シルバー世代の再就職特集』で一日密着の取材を受けた事もあるそうだ。

そしてたまたまテレビを見ていた知人達から連絡が押し寄せたらしい。

「テレビの効果ってすごいのよ」

睦子はしみじみと言う。

その後テレビの放送を見た高齢者が次々とこの店に押し寄せこのカフェは高齢者層の人気も獲得する。

高齢化社会はシルバー世代をいかに取り込むかがポイントだ。

その時睦子が華子に言った。

「華子ちゃんは陸さんの婚約者なんですってね。おめでとう！　陸さんならきっと素敵な旦那様になるわ。だってね、あの人私の夫の若い時にそっくりなのよ。ああいう人は女を不幸にはしないわ。それは私が保証する！　だから絶対に手放しちゃ駄目よ」

睦子の言葉に華子は頷いて微笑んだ。

そうこうしているうちに午後4時になった。野村が一足先に帰ったので華子と睦子は閉店作業を始める。

その時新たな客が一人入って来た。

「いらっしゃいませ」

華子が振り向いて声をかけるとその顔が驚きの表情になる。

なぜならそこには重森がいたからだ。