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与太郎がその真っ白な布を肩にかけ、鼻歌まじりに歩くだけで、不思議なことが起こり始める。
通りがかりの長屋では、重い流行り病で寝込んでいた若者が、与太郎がそばを通った瞬間に「おや、体が軽いぞ」と跳ね起き、真っ青だった顔に赤みがさした。
与太郎: 「おや、お兄さん。元気になったのかい? 良かったなぁ。お天道様を拝めるのは、何よりの贅沢だもんねぇ」
与太郎はニコニコしながら、お礼を言おうとする人々を後に、路地裏へと入っていきます。そこには、痩せこけた野良猫や、羽を痛めて動けないカラスがいた。
与太郎: 「よしよし、お前さんもお腹が空いたろう。これはあたいの食べ残しだけど、お食べ。……カラスさん、痛いのかい? 待っておくれ、この布で少し撫でてあげるからね」
与太郎がそっと布でカラスの傷口を拭うと、傷は瞬く間に塞がり、カラスは感謝するように「カァ」と一声鳴いて、空高く飛び上がった。
町の人々: 「……見たか、今の? あの男、歩くたびに福が溢れ出してるぞ!」
「あの方は、もしや観音様の化身じゃなかろうか……」
いつしか与太郎は、町の人々から『福布の与太郎様』と呼ばれ、彼が歩く道には、病を治してほしい人や、悩みを抱える人が列をなすようになった。
ーその頃の石藤たちはー
一方で、ゴミ溜めのようなボロ小屋に身を寄せている石藤と徳兵衛は、その噂を忌々しそうに聞きつけていた。
石藤: 「……聞いたかい、徳兵衛。あの泥亀が、今じゃ『お代官様』より崇められてるって話だよ。あの布……あの女が化けたあの布さえあれば、あたいのこの顔だって、元の器量に戻れるはずなんだ……!」
徳兵衛: 「へへっ、全くだ。あの布があれば、石ころに変わっちまった小判も、全部元通りになるに違いねぇ。……石藤、あいつはバカだ。おまけに、生き物に餌をやるのに夢中で、脇が甘い」
石藤: 「……ふん。今夜だよ。あいつが寝静まった頃に、あの布を盗み出してやる。……あたいをこんな目にあわせた報い、たっぷりと受けさせてやるんだから!」
石藤の背後で、かつてより一層禍々しくなった「貧乏神」が、真っ黒な舌を出してニタリと笑った。
その夜、与太郎が静かに寝息を立てている竹林の平屋に、二つの影が忍び寄る。
ボロを纏い、どす黒い執念を燃やす石藤と徳兵衛だ。
石藤: 「……へへっ、いたよ。あの枕元にある真っ白な布……。あれさえ手に入れば、あたいはまた絶世の美女に戻れるんだ……!」
徳兵衛: 「しっ、声を出すな。さっさと盗んで、おさらばしようぜ」
二人が汚れた手を布に伸ばそうとした、その時。
「……ニャアァァァン!!」
闇を切り裂くような鋭い咆哮が響き渡った。
見れば、与太郎が昼間エサをあげたあの痩せ細った野良猫が、いつの間にか与太郎の枕元に座っている。しかし、その姿はもはや小さな猫ではない。
体は虎のように大きく膨れ上がり、尻尾は二股に分かれ、目は爛々と怪しい火を灯した「化け猫」へと変貌していた。
化け猫: 「……欲に溺れた醜い人間め。この御方の慈愛を、汚れた手で盗もうなどと……。その指、一本残らず噛み砕いてやろうか!」
石藤: 「ひ、ひぃぃっ!? 化け物だぁ!」
腰を抜かした二人が慌てて外へ逃げ出そうとすると、今度は空からバサバサと不吉な羽音が降り注ぐ。
「カァッ! カァッ! カァッ!!」
それは、与太郎が手当てをしたあのカラスだった。
仲間を数百羽も呼び寄せたのか、夜空を埋め尽くすほどの黒い影が、弾丸のように石藤と徳兵衛に襲いかかる。
カラスたち: 「……恩知らずめ! 報いを受けろ!」
鋭い嘴(くちばし)が、石藤の老婆のような顔や、徳兵衛のネズミのような背中を容赦なく突き刺す。
石藤: 「痛いっ! 痛いよぉ! 助けておくれ、与太郎! あたいが悪かった、許しておくれ!」
徳兵衛: 「うわぁぁ! 目が、目が潰れる! 誰か助けてくれぇ!」
二人は竹林の中を無様に転げ回り、カラスに突かれ、化け猫に追い回されながら、闇の向こうへと消えていった。
騒ぎに全く気づかず、ぐっすりと眠っていた与太郎が目を覚ました。
与太郎: 「ふぁ〜あ。……おや? 庭に真っ黒な羽がたくさん落ちてるなぁ。……あ、猫さん、おはよう。なんだか昨夜より、毛並みが良くなったみたいだねぇ」
化け猫から元の小さな姿に戻った猫は、満足そうに「ゴロゴロ」とのどを鳴らし、与太郎の足元にすり寄ります。
与太郎: 「さて、今日もお天道様にお願いして、みんなが元気になれるようにお散歩に行こうかねぇ」
与太郎が「福布」を肩にかけて外へ出ると、空には昨夜の猛攻が嘘のように、澄み渡った青空が広がっていた。
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