後宮は、沸いていた。
王太子妃、耀我《ようが》が、勝負に出たと──。
当然、勝ちは、こちら。
その、並々ならぬ自信は、後宮から溢れだし、華蓮の宮へ、そして、宮殿中へと広がっていく。
当然、王の耳にも入り、斉令《さいれい》が、呼びだされていた。
「……ですから、噂、ですよ、父上」
「噂、で、済まされる熱気では、ないようだぞ、どうする」
「ど、どうすると申されましても、たかだか、女通しの意地の張り合い。それに、茶会を開くだけ、でしょう?」
「お前、何も知らんのか?!だから、その茶会だ!そこに、客人が、呼ばれておる」
「まあ、茶会ですから……」
「お前なぁ、後宮からの招待状には、この私、玄国王の名と、当然、お前、王太子の名が、許可なく使われているのだぞ!」
斉令は、耳を疑った。
「そのような事が……」
「うむ、許されぬ」
申し訳ございませんと、斉令は、父王に向かって平伏した。
自分の妻である王太子妃の行いは、王太子の命と、捉えられても、仕方のないこと。
宮殿では、上位に付く夫と妻は、運命共同体なのだ。しかし、運悪く、こちらの夫婦仲は、こじれている。
「顔を上げよ、斉令よ。あの女は、やはり、相応しくなかったのかも知れないな。お前が、立太子したと周りが、浮き足だった。早急に、正妃を娶れと。そして、まあ、手頃な、どこの、派閥にも属さない家の娘を選んだのだがいけなかった……。年上すぎたか?」
前にいる、王は、父親の顔を見せて、斉令の事を心配していた。
「まあ、私が、十五、あやつは、二十五、でしたからなぁ。いわば、行き送れ、が、いきなり頂点に立ってしまった訳ですから、そりゃあ、舞い上がるでしょう。慣れれば、妃の自覚が出ると思ったのですが、未だに、栄華を極めようと、下心が動き続けているのですから」
「まあ、お前が、外で、羽を伸ばしたくなるのも分かる。が、何とか、上手くやれぬものか」
「私も、わかっておりますよ。ですが、宮に、こもっていては、父上、いえ、陛下。あの件が……」
「ああ……そうだったなぁ。すまぬ」
「さても、この茶会、波乱を呼ぶことでしょうね」
「いっそ、王、主宰にしてしまおうかとも、思ったが、しかし……」
「なりません!あやつを、付け上がらせるだけです。ここは、何か、お灸をすえなくては……」
父と息子、いや、王と、その僕《しもべ》である、王太子は、顔を付き合わせ、延々と話し込んだ。
そして、話し込む、もう一組の姿が──。
「それが、なかなか、良い趣向が思い浮かばなくて」
「おお!華蓮様、どうか、そのように、苦しそうなお顔をなさらないでください!」
離宮の庭では、華蓮と、丹厳が、茶会について話し込んでいた。
「丹厳様、もう少し、お離れください」
「姫様は、嫁入り前」
「男のあなた様が、ここに、いる、というのも、普通は、許されぬ事なのですけれど?」
腹心三人組が、チクチクと、丹厳をいたぶる。
「おお!そうでした、私は、単なる、姫様の僕《しもべ》それを、このように、馴れ馴れしくも!」
丹厳は、飛び退いて、華蓮から、距離をおいた。
「分かれば結構」
「ですが、もそっと、離れたほうが」
「ええ、そうそう、もっと、そうですね、あともう少し、後退って頂けると……」
三人組の、勧めに従って、華蓮と適切な距離をとろうとした丹厳は、うわっ!と、声をあげた瞬間、どぼん、と、池に落ちていた。
「こ、これが、適切な、距離で、ございますか、お三人……」
池に落ち、濡れそぼつ丹厳の姿に、三人組は、クスクス笑った。
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