テラーノベル
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私に歩み寄る夫を、ダウンライトの薄明かりが不気味に照らす。
「貧乏暮らしの田舎に帰るのか? 帰って、ろくでなしの兄貴を詰るか? それとも、いつも慰めてくれる親友の家に上がり込むか?」
まるで私をいたぶるかのように、不敵な笑みを浮かべ、じりじりと迫ってくる夫。
「そ……そんなことしないわ!」
私は口元を引き攣らせ、一歩一歩後ずさりする。
しかし、すぐさま震える足は逃げ場を失い、踵がベッドの端にコツンと当たった。
目を見張り、息を殺して、夫の背後に見える廊下の明かりへちらりと視線を飛ばす。
この場から逃げ出そうと体を右にずらし、足を一歩踏み出した瞬間、
「キャッ!」
強い力で肩を後方へ突き飛ばされ、いとも簡単にベッドへ倒れ込んだ。
ドスッと鈍い音とともに、私の体がシーツへ沈み込む。
「やめて! 離してっ!」
「無駄なことを。俺から逃げられるとでも思ったか?」
夫は必死に抵抗する私の両腕を掴み、覆い被さった。
「イヤっ! 遼っ、なんでこんなっ……ひっ」
首筋を舌先が這い、触れた場所からザワリと肌が粟立つ。
「触らないでっ。お願い。やめてっ!」
涙を溜めた目で、私は泣き叫んだ。
夫は首筋に留めていた舌を離し、私を見下ろす。
「やめて? ずっと俺にこうされたかったんだろ? 抱いてもらえず淋しかったんだろ?」
私の顔を覗き込みながら、乱れたスカートを捲り上げる。
「違っ……」
私はその手から逃れようと膝を閉じ、身を捩る。けれど夫は重くのし掛かり、抗うことを許さない。
「そう言えば。以前は物欲しげに俺を見ていたが。ここ最近は、何故か俺を誘惑してこなくなったな」
汗ばんだ太股を撫で回し、夫はクッと喉を鳴らした。
ねじ伏せられた私は身体を捻り、シーツを指で搔きながら抵抗を続ける。
「遼、お願い。やめて……」
涙が溢れ、頬を伝ってシーツに流れ落ちる。
「俺を拒絶するなんて許さない。
……もしかして、この身体を俺以外の誰かに触らせたのか?」
夫の声に、次第に怒気が滲み始める。
「……そうか。あの目障りな消化器外科医かっ!」
ブラウスのボタンは引きちぎられ、音を立て床へ転がった。
下着を強引に捲し上げられ、胸の膨らみが露わになる。
「違う! 直江先生はそんなんじゃない!」
「じゃあ誰だっ。 誰にこの身体を触らせた!」
夫は露出した胸を揉みしだき、今度はショーツに手を掛けた。
「違うっ……痛っ…ゥ……ッ…」
夫が乱暴に扱う胸の先端に痛みが走った。
「この身体は俺のものだ! 他の男に触らせるなんて許さない!」
「違う……誤解よ……お願いだからやめて……うう…っ…」
大きな絶望感が襲う。
怯えながら身体を震わせ、浅い息をして夫に懇願する。
しかし、怒り狂う夫にその声は聞き入れられないまま、強い力で股の間に入り込まれた。
「……酷い……こんなの……ンンっ……」
下半身に引き裂かれるような痛みが走る。
支配欲で捻じ伏せられ、押し込まれ、屈辱感と激痛に耐えるしかできない。
助けて……
助けて……
今泉さん……
……。
……カチッ……カチッ……カチッ……。
秒針の音が聞こえる。
私はシーツの乱れたベッドに仰向けになり、瞬きもせず、天井に浮かぶライトの光を虚ろな目で見上げていた。
廃人のように力の抜けた肉体。
屍のように魂を抜き取られた精神。
気怠い下肢を動かした瞬間、下腹部にズキッと刺さるような痛みが走った。
受け入れる準備もないまま、乾いた粘膜に捩じ込まれた非情な痛み。
不快な灼熱感が、体の奥から込み上げる。
「……んんっ……」
痛みに顔をしかめ、うずくまるように体をくの字に丸めた。
しばらくして、バタンッと扉の閉まる音が耳に届いた。
私は顔を上げ、足元へ視線を向ける。
僅かに開いたままの扉の隙間から、廊下の光が差し込んでいる。
力の入らない体を億劫に起こし、ブラウスを寄せて、はだけた胸元を隠す。
ベッドから足を下ろすと、聞き耳を立てながらそっと扉に近づき、廊下を見渡した。
リビングの扉は開け放たれたままで、室内はシンと静まり返っている。
息を呑んで耳を澄ませると、向かいのバスルームから微かに水音が聞こえた。
「…………」
遼はバスルームに――
私は目を見開き、薄暗い寝室の床を見渡した。
視線がベッドの脇に倒れているバッグを捉えると、急いでそれを拾い上げた。
怯えた身体に血液を送り出す心臓が、胸を突き破りそうなほど激しく脈打っている。
固唾を呑み、忍び足で玄関へ向かう。
玄関の扉を開け、息を殺しながらそっと閉めた。
夜風に吹かれながら、深く息を吸い込む。
……逃げ出せた。
遼から。
あの家から逃げ出せた!
安堵して頬を緩めるも、心臓は未だ激しい鼓動を打っている。
早くここから離れなきゃ!
今見つかったら連れ戻される。
また酷いことをされるかもしれない。
一瞬にして、先ほどの恐怖が蘇る。
バッグを抱える腕に力を込め、縺れそうになる足でエレベーターへ向かって走り出した。
コメント
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うわ……第115話、胸が締め付けられる展開だった……。冒頭の「ダウンライトの薄明かりが不気味に照らす」って描写からもう恐怖がにじんでて、最後まで息が止まるような緊張感が続いた。主人公の「今泉さん……」という心の叫びが切なくて、彼女の無力さと絶望が痛いほど伝わってきたよ。逃げ出せたときの一瞬の安堵、本当に良かった。この先どうなるのか、早く続きが気になる……! 柏木さん、重く丁寧な心理描写、さすがです。
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桃下結衣
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ruruha
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