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教室、放課後。文化祭準備のざわめきがまだ残る。遥・日下部・蓮司の3人は、配布物を運ぶ手伝いに回された。
「あっ、くさかべくん、それそっちの掲示板にお願い!」
クラスメイトの女子が、軽く声をかける。
日下部は一瞬だけ戸惑うが、無言で頷いて壁に向かう。
その姿に、彼女は「やっぱ日下部くんって、無口だけど頼れるよね~」と別の子に囁く。
蓮司はすかさず聞きつけて笑う。
「“無口だけど”って、逆に“うるさくて頼れない”って誰のこと?」
「いや誰とも言ってないし〜〜」
女子たちは笑いながら去っていく。
蓮司がちらっと遥を見る。
「お前、誰とも目ぇ合ってないな。コンタクト外した?」
「してない」
「じゃあ、コミュニケーション障害か。最新型だね」
遥は、特に反応もせず、ガムテを指に巻いて遊んでいた。
その時、男子グループのひとりが何気なく話しかけてくる。
「おーい遥、これさ、どっち持ってけばいいと思う?」
遥はそちらを見ずに、「知らない」と答える。
「は? お前さ、マジでそれしか言わないよな。“知らない”って。それでよく生きてんな」
一瞬、空気が止まる。
遥の目がゆっくりそちらに向いた。
何も言わない。ただ、真っすぐに、刺すような視線だけが届く。
相手は「……あ、いや、冗談、冗談」と目をそらした。
蓮司は笑いながら首をすくめた。
「なあ、悪いけどあいつ、昔から“存在が雑音”みたいに扱われてきてっから、
“冗談”が通じる配線、ついてないのよ」
「いや、そこまで言わなくていいだろ」
日下部が低く返す。
蓮司は日下部に片目だけ向けて、さらりと言う。
「お前だって、最初“あいつ、目ぇ死んでるな”って思ったろ?」
「……思ってねえ」
「へえ?」
日下部は少し目を伏せた。
その会話を聞いていた遥は、ふと口を開く。
「“冗談”って……、どこまでが?」
「ん?」
「誰かが壊れても、“冗談”?」
蓮司は肩をすくめた。
「世間はね。冗談って言えば無罪だから」
「……ふうん」
遥はまた目をそらした。
その顔に感情はなく、ただ音だけが沈んでいった。
教室のざわめきはそのまま。
でも3人のいる一角だけ、明らかに、温度が違っていた。