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#異能
#伝奇
オン アロマヤ テング スマンキ ソワカ。
オン ヒラヒラ ケン ヒラケンノウ ソワカ。
あぁ、気持ちが悪い。
本当に気持ちが悪い。
キミカ、お前は本当に何なんだ?
何もできないくせに。ちょっと小突けば再起不能になるただの小娘のくせに。友達と楽しそうに遊んでいるのが一番似合う、ガキのくせに。
正直に言うと僕は怪異なんかより、お前の方がはるかに怖い。
オン アロマヤ テング スマンキ ソワカ。
オン ヒラヒラ ケン ヒラケンノウ ソワカ。
ミシリと嫌な音を立ててキミカの身体が右肩が大きく歪む。
限界だった。それ以上はとても見ていられない。
顔を背け、僕は両目を固くつむる。
けひゃけひゃけひゃ、けひゃけひゃけひゃ、けひゃけひゃけひゃ……!
怪異が嗤っている。僕を嗤っている。
そりゃ嗤われるだろ。
僕の頭の中で冷たく笑う声が聞こえる。
だってお前は自分の命を守ろうと文字通り盾になろうとしてくれる女の子の姿とさえ、向き合えない臆病者だ。
お前の母親が死んだ時もこんな感じだよな?
「悪いけどその馬鹿笑い、止めてもらっていいかな? ここ、一応病院だし他の入院患者の迷惑だからね」
廊下に女の声が響いた。
凛とした、その明朗なその声に僕は聞き覚えがあった。
直後、何かを殴りつけるような凄まじい物音が聞こえ、耳障りな怪異の嗤い声がピタリと止む。
「……?」
何が起きているのか全く理解できないまま、僕は目を開く。
目の前に立つキミカは、いつの間にか唱え事を止めていた。
驚いているとも、呆れているとも取れる表情で前方を見つめている。
その視線の先を僕は追った。
キミカがジッと凝視していたのは、一人の女だった。一目で研究職に身を置いていることを示す上着に白衣を着こんだその女は、恐らく三十代前半。ショートカットが恐ろしくよく似合う、小顔の美人だ。
だが柔らかな表情とは対照的に眼鏡の奥にある、その瞳は暗い。怪異と関わり、人生を壊された人間特有の目だ。そして、経験上、こういう目をしたやつにろくな人間はいない。
組織での呼び名は『怪人』であり、実際女は奇怪としか言いようのない姿をしていた。
まず目につくのは女の背中から放射状に生え伸びた、六本の触手だった。
それぞれ四メートルほどの長さを持つそれらはムカデのような節足動物を彷彿とさせるフォルムを持ち、うねうねと宙で蠢くその体色はメタリックな鉛色。
一見すると最新式のロボットアームのようにも見えなくないが、節くれ立った各体節には不気味な血脈が流れているのが見えた。
触手の先端には肉食獣のように鋭く凶悪な牙が生えそろい、それで人面を持つ石の怪異に喰らいつき、しっかりとその動きを押さえこんでいた。
「し、柴崎さん。あんた……」
「礼なら不要だよ塚森コウ」
僕がかすれた声で話しかけると、人面石を冷たく見すえたまま女が軽く手を振る。
「こう見えても私はこの施設の責任者だから。ここにいる人間、全ての安全を守る義務があるんだよね。……あ、ちょっと待って。今、この石コロ殺処分するから」
まるで優しい母親のような口調で女は物騒なことを言う。
と、一本の触手が人面石から牙を外し、ゆらりと蛇のように鎌首をもたげる。次の瞬間、その口が奇妙な動きでねじれ――、先端を鋭く尖らせた錐のような形状に変化する。
柔和だった女の表情が般若のそれに豹変。そして、ただ一言。それは恐らく、世界で一番短く、明白な呪いの言葉。
「――死ね」