水彩画の中でその一色だけが綺麗だった、僕は放課後の美術室で色鮮やかな水彩画を水彩紙に映し出すとひとつの色に釘付けだった。その色が本当に何よりも綺麗でずっと眺めていた。その色を見ていると、何故だか過去の自分のことを思い出しそうになった。
「──さん、身体の方は大丈夫?その様子だとまだ記憶は取り戻せてないのね…」
水彩画に見蕩れて保健の先生?が入ってきたことに気付かなかった。そう、僕は1週間前事故に遭い記憶を失ったのだ。1週間経った今でも不思議なことに、自分のことだけが綺麗サッパリ記憶から抜けているのだ。自身が何処で生まれて誰に育てられたかも好きなものも全部㤀ている。
「また水彩画…?」
「はい、なんだか水彩画を見ていると自分を思い出せそうなんです」
この会話、何回目だろうか。
それぐらい僕は最近ずっと水彩画ばかり見ているということだろう。
僕はおかしなことを先生に言う。
「僕はなにを如何頑張っても無力だった気がする、優等生ぶってるだけの劣等生で心もズタズタに切り刻まれていたと思うの、違う、かな?」
妙な感情に襲われた、なにか焦っている。早く記憶を取り戻さないと僕が僕でいれない気がしてならないんだ。
コメント
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記憶は無くなっても水彩画を見てると自分を取り戻せるような感覚になるってことは『僕』にとって水彩画はとても大切なものなんだろうな、って思った🙄💭