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コメント
1件
うわああああジントぉぉぉ……!!😭💔 もう無理しすぎだってば!!でも月光の中で瘴気を還していく姿、めっちゃ綺麗でエモすぎて泣いた……。 それにしても村人の反応がリアルで胸が痛いよ。助けたのにまだ“恐れ”が残ってるのわかる〜。神父の複雑な表情が気になる!! そしてハヤトの「この時間を守りたい」って語りが尊すぎるんだが……?😇💕 ダイチの「ちゃんと傍におってや」もズルいよ…。朝焼けのミストア村、絶対美しい風景やろなあ。次の話も楽しみすぎるよ comi 先生!!🌸✨
第十一章 月の故郷
第五話 晴れゆく霧
気が付くと、周囲に魔物の姿はなかった。
村を覆っていた瘴気も薄れ、夜風の中に黒い霧が僅かに漂っているだけだった。
静寂が辺りを包む。
先ほどまで響いていた悲鳴や咆哮が、嘘のように消えていた。
その中心で、月光だけが静かに降り注いでいた。
その時。
「……っ、ぁ……」
ジントの膝が崩れ落ちる。
「ジント!!」
その身体をダイチが慌てて抱きとめる。
ジントの意識は朦朧としていた。
焦点の合わない黒い瞳。
額に滲む汗。
浅く、不安定な呼吸。
全身から力が抜けていく。
「お前……また無茶しおって……!」
ダイチの声が震えていた。
怒っているようで、泣きそうでもある。
ジントを強く抱き締める。
まるで離したら消えてしまいそうで。
ジントは薄く目を開けた。
ぼんやりとダイチを見上げ、小さく微笑む。
「……ご、めん……」
「謝んなや……!」
「お前が謝ることちゃうやろ……」
ダイチが苦しそうに顔を歪める。
そこへ他の三人も駆け寄ってきた。
ハヤトは肩で荒く息をし、大剣を支えに立っている。
ジュウタロウの髪は乱れ、氷剣の刃先にはまだ冷気が残っていた。
シュンタも息を切らしながら、それでも無理やり笑おうとしている。
全員、満身創痍だった。
「ジント……」
ハヤトが膝をつき、その顔を覗き込む。
汗で張り付いた黒髪を、そっと撫でた。
「無理するなって言ったのに……」
困ったように笑う。
けれどその目には、確かな安堵が浮かんでいた。
「……でも、よく耐えたな」
ジントは答えない。
もう返事をする力も残っていないようだった。
ジュウタロウが静かに息を吐く。
「……無事で良かった」
シュンタも胸を撫で下ろした。
「ほんまヒヤヒヤさせんといてぇや……」
夜風が吹き抜ける。
薄く漂っていた瘴気も、少しずつ月夜へ溶けていっていた。
やがて、教会へ避難していた村人達がおそるおそる外へ姿を現し始める。
誰もが疲れ切った顔をしていた。
壊れた家々。
倒れた門。
戦いの痕。
そして、その中央に立つ5人を複雑な表情で見つめている。
安堵。
#恋愛
ばたっちゅ
4,548
成瀬りん
148
#怪異
215
困惑。
恐怖。
感謝。
様々な感情が入り混じっていた。
その中から、一人の少女がゆっくり歩み出る。
宿屋の娘だった。
まだ怯えたように肩を震わせながら、それでもジント達の前まで来る。
そして深々と頭を下げた。
「……さっきは……助けていただいて……ありがとうございました……!」
声が少し震えている。
シュンタが優しく笑った。
「無事で良かったわ。怪我ないん?」
少女は顔を赤くしながら、小さく頷く。
「は、はい……!」
その後ろから、宿屋の主人とおかみさんも駆け寄ってきた。
「皆さん、大丈夫ですか!?」
「もう…ボロボロじゃないかい!」
心配そうに5人を見る。
特にジントの青白い顔を見て、おかみさんが息を呑んだ。
「早くうちで休みなさい!ほら、立てるかい?」
その言葉に、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。
周囲の村人達も、ようやく実感し始めていた。
――助かったのだと。
誰かが泣き出す。
別の誰かが家族を抱き締める。
歓声が上がる。
「助かった……!」
「魔物がいなくなった……!」
「生きてる……!」
絶望に沈んでいた村へ、少しずつ安堵が広がっていく。
だがその中で、ジントを見るなり小さく身を引いた村人もいた。
「……あの子が……」
「魔物が集まっていた……」
「でも……助けてくれたんだろ……?」
不安げな囁きが、夜風へ溶ける。
完全には理解できない。
けれど完全には否定もできない。
そんな曖昧な空気だった。
そこへ村長が姿を現した。
疲れ切った顔で、それでも真っ直ぐ5人を見る。
「皆様……本当に、ありがとうございました」
深く頭を下げる。
「あなた方がいなければ、この村は……」
言葉を詰まらせた。
ハヤトが静かに頷く。
その少し後ろ。
教会の神父が静かに立っていた。
その視線は、ジントへ向けられている。
そこには恐れだけではない。
迷いや戸惑いのようなものが混じっていた。
まるで、長く信じてきた何かと目の前の現実の間で揺れているように。
だが何も言わない。
ただ静かに背を向け、そのまま教会の中へ戻っていった。
空は少しずつ薄青く染まり始めていた。
長い夜が終わろうとしていた。
◇
5人が宿屋へ戻った頃には空はすっかり白み始めていた。
夜明け前の冷たい空気が、戦闘後の火照った身体に沁みる。
幸い、宿屋は大きな被害を受けていなかった。
入口の扉こそ少し傷付いていたものの、建物自体は無事だ。
「よかったぁ……」
おかみさんが心底安心したように胸を撫で下ろす。
その横で主人も何度も頷いていた。
「皆さんが守ってくれたおかげです」
ジントはすでに意識が半分飛びかけており、ダイチに支えられながら二階へ運ばれていく。
「ほら、早くおし!」
おかみさんに急かされ、4人は慌てて部屋へ入った。
ベッドへ横になった途端、ジントは眠るように意識を手放した。
浅かった呼吸も、少しずつ落ち着いていく。
「……寝たか」
ハヤトが小さく呟く。
ダイチはベッド脇にしゃがみ込んだまま、まだ離れようとしない。
そんな4人の元へ、おかみさんと娘が救急箱を抱えてやって来た。
「ほらあんた達も座りな! 傷だらけじゃないか!」
おかみさんがテキパキと準備をする。
「いってぇ!!」
早速ダイチが消毒されて叫ぶ。
「うるさいよ! 男の子でしょ!」
「いや痛いもんは痛いやろ!!」
シュンタが吹き出す。
「ダイちゃん、子供みたいやなぁ」
「お前は黙っとれ!!」
シュンタも腕を切っていたらしく、娘が恐る恐る包帯を巻いていた。
「……あ、あの……」
「ん?」
顔を上げたシュンタと目が合い、娘の顔が一気に赤くなる。
「だ、大丈夫ですか……?」
「ん〜? 心配してくれるん?」
シュンタがにこっと笑う。
娘はさらに真っ赤になった。
「っ……!」
「はは、ありがとな」
優しく頭を撫でられ、娘は完全に固まってしまう。
それを見たダイチが呆れた顔をする。
「何口説いとんねんこんな時に」
「人聞き悪いわぁ。交流や交流」
ジュウタロウは椅子に座ったまま静かに手当を受けていた。
服は裂け、腕にも細かな傷が増えている。
それでも本人は特に気にしていない様子だった。
「お兄さんも、こんな綺麗なお顔をしているのにかなりお強いんですねぇ」
おかみさんが感心したように言う。
ジュウタロウは少しだけ考え、
「……まあ、それなりに」
とだけ答えた。
「もっと他に言い方あるやろ」
ダイチが突っ込む。
部屋の空気に、いつもの軽さが戻り始めていた。
ひと通り手当が終わる頃には、外はすっかり朝焼けに染まり始めていた。
狭い部屋に、4人が自然と集まる。
ベッドではジントが静かに眠っている。
長い睫毛。
穏やかな寝息。
戦闘中の張り詰めた空気が嘘のようだった。
「……ほんま、無茶しよる」
ダイチがぽつりと呟く。
その声音は怒っているというより、安心しきったものだった。
ハヤトは壁に寄り掛かりながら、ふっと笑う。
「でも、今回もジントに助けられたな」
「せやな」
シュンタも珍しく静かな声で答える。
「最後、めちゃくちゃ綺麗やった……」
月光の中で瘴気を還していく姿が、まだ脳裏に焼き付いていた。
ジュウタロウは眠るジントを見つめたまま、小さく息を吐く。
「……少し、変わったな」
「え?」
ダイチが振り返る。
「前より、ちゃんと“還せる”ようになっている」
その言葉に、部屋が少し静かになる。
誰もが感じていた。
ジントの力が、また一歩先へ進み始めていることを。
だが同時に、その代償の大きさも。
ダイチは眠るジントの手をそっと握る。
まだ少し冷たい。
「……頼むから、ちゃんと傍におってや……」
祈りにも似た小さな呟きは、誰にも聞こえなかった。
窓の外では、朝日がゆっくりとミストア村を照らし始めていた。
村を覆っていた霧が、ゆっくりと晴れていく。
ーーー
「……そろそろ俺達も休むか」
ジュウタロウが静かに立ち上がる。
さすがに疲労を隠しきれないようで、その声も少し掠れていた。
「だな……」
ハヤトも頷く。
だが
「えぇ〜……俺まだここおる……」
ダイチが露骨に嫌そうな顔をした。
ベッド脇へ座ったまま、まったく動こうとしない。
「いやいやいや、ダイちゃん限界やろ」
シュンタが呆れながら肩を掴む。
「でもジントが……」
「寝とるやん」
「急に苦しくなったらどうすんねん!」
「その時はハヤちゃんおるやろ」
「それが嫌や言うてんねん!!」
ダイチの叫び声が部屋に響く。
ハヤトが吹き出した。
「俺、そんな信用ないか?」
「ない!!」
即答だった。
「ほら行くで〜」
シュンタは半ば強引にダイチを引き剥がす。
「うわっ、離せや!!」
「おやすみぃ」
「ハヤト変なことすんなよー!!」
「何をだ」
「知らんけど!!」
騒がしい声が遠ざかっていく。
やがて扉が閉まり、部屋は急に静かになった。
夜明け前の淡い光だけが、薄く室内を照らしている。
ハヤトはふうっと深く息を吐き、そのままベッドへ横になった。
身体が重い。
全身が痛む。
戦闘の疲労が今になって押し寄せてきていた。
けれど目を閉じても、頭の中が静かにならない。
月光の中に立つジント。
黒い瘴気を受け入れる姿。
魔物達が還っていく光景。
そして村人達の視線。
怯え。
戸惑い。
教会の神父の苦い表情。
様々な映像が、次々と脳裏を過っていく。
疲れているはずなのに、なかなか眠気が来ない。
「……はぁ」
小さく息を吐いた、その時だった。
「……うぅん……」
隣のベッドから微かな声が聞こえる。
ハヤトははっとして身体を起こした。
ジントが小さく眉を寄せている。
苦しそうな表情。
浅い呼吸。
戦闘中の姿が脳裏をよぎり、ハヤトの心臓が一瞬強く跳ねた。
「ジント?」
静かに呼ぶ。
だが次の瞬間、ジントの表情はふっと緩み、再び穏やかな寝息を立て始めた。
「……なんだ」
ハヤトは安堵したように息を吐く。
そしてもう一度ベッドへ身体を預けた。
窓の外では、夜が少しずつ明け始めている。
静かな朝だった。
ハヤトはぼんやり天井を見つめる。
今日一日だけでも、色々なことがあった。
ジントの力。
月蝕の子。
人々の恐れ。
これから先、自分達が進む道は決して平坦じゃない。
きっともっと苦しいことが待っている。
それでも。
ふと隣を見る。
穏やかに眠るジント。
騒がしく笑う仲間達。
守れた村。
胸の奥に、すとんと何かが落ちた気がした。
――ああ。
俺は、この時間を守っていきたいんだ。
それは皇子としての使命でもなく、世界を救うための大きな理想でもなかった。
ただ目の前にいる仲間達と、こうして笑える時間を失いたくない。
その想いだけだった。
ジントが何者なのか。
月蝕の子が、この世界でどんな意味を持つのか。
これから先、きっと多くの困難が待っている。
もしかしたら、自分達の前に立ちはだかるものは魔物だけではないのかもしれない。
それでも、この小さな温もりだけは絶対に失いたくなかった。
ハヤトは小さく笑う。
そしてゆっくりと目を閉じる。
ようやく、静かな眠りが訪れようとしていた。