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千尋と別れた葉月は、家に帰り庭に出た。

庭の一番奥まで行くと、月明かりに輝く海が見え、頬に生暖かい海風が触れた。

葉月は、その美しい光景を眺めながら、思い切り深く息を吸い込む。

そして、いくつか輝いている星を眺めながら心の中で呟いた。





(お父さん、お母さん、私ね、この家を一緒に守ってくれる人を見つけたよ)





その瞬間、大きな流れ星が弧を描くように流れた。





「あっ!」





それを見た瞬間、葉月は思わず声を上げた。

まるで、天国にいる両親からの合図のように思えた。





(ふふっ、ちゃんと届いたのね)





潮の香りをもう一度吸い込むと、葉月は家の中へ戻った。

その時、携帯が鳴った。賢太郎からの着信だ。





「もしもし?」

「千尋さんとの飲み会、終わった?」

「うん、今、帰って来たところ。そっちはどう?」

「楽しんでるよ。航太郎は今、自販機にジュースを買いに行った」

「そっか」

「今日は結構いい写真が撮れてさ、航太郎に雑誌のコンテストに応募させようかと思ってる」

「わぁ、そんなにいいのが撮れたの? プロカメラマンの指導が良かったのね」

「いや、彼のセンスがいいんだよ。親子で鉄道カメラマンっていうのも、いいかも!」

「ふふ、楽しみね」





そこで二人はクスクスと笑った。





「ねえ?」

「ん?」

「会いたい」

「お? どうした? 酔ってるの?」

「そんなに飲んでないわ。でもね、すごく会いたいの」

「嬉しいこと言ってくれるな。明日には帰るから」

「うん」

「帰ってすぐに葉月を抱き締めたいけど、航太郎がいるから我慢だなぁ……残念!」

「子供の前では、そういうことはしないって約束したものね」

「ああ。……なぁ、葉月」

「なぁに?」

「仕事、辞めたら?」

「え? いきなりどうしたの?」

「早く専業主婦になったら?」

「そ、そんなこと言っても、急には無理よ」

「だったら最短で…さ」

「でも……」

「経済的なことは心配しなくてもいいから。それは、俺がちゃんとするから」

「でも、三人分よ? 本当に大丈夫なの?」

「俺を誰だと思ってるの?」

「えっと、新進気鋭の鉄道カメラマン?」

「それだと、なんか稼ぎが少なそうだな……」





賢太郎はそう言ってクスッと笑った。





「心配しなくても、新たな仕事のオファーがいくつもきてる。どれも継続的な案件だ」

「そうなの? すごいじゃない」

「だから、君たち二人のことはしっかり支えられるから」

「わぁ、頼もしい!」

「だから、いつも家にいてくれよ。葉月には、いつも俺の傍にいて欲しい。そうしたら、航太郎が学校に行っている間に、愛し合えるだろう?」

「あーっ、それが目的だったのね!」

「ハハッ、もちろんそれだけじゃないよ。買い物したり、映画やランチに行ったり、とにかくこれから君とやりたいことが山ほどあるんだ」

「ふふっ、なんだか楽しそうね」

「だろ? だから、辞めるって会社に言ってよ」

「わかったわ。ちょっと考えてみる」

「考えなくていいから! 君は俺の言う通りにしていればいいの」





元夫の啓介に同じ言葉を言われたら、葉月はきっと反発しただろう。

しかし、賢太郎に言われると、不思議と嫌な気はしない。




「わかったわ」

「よし、いい子だ!」





会話が止まった時、葉月は勇気を出してもう一つ気になっていたことを賢太郎に聞いた。




「ねえ……昔、付き合っていた12歳年上の人ってどんな人だった?」




いきなり葉月がそんなことを聞いたので、賢太郎は驚いた。




「あれ? 急にどうしたの?」

「ううん、どんな人か知りたいなって思って……」




そこで、賢太郎は一度深呼吸をしてからこう言った。




「出版社に勤めていた女性だよ。当時、俺はそこでバイトしてたんだ。向こうからモーションかけてきたから、つき合っただけ。俺もまだ大学生で若かったからね」




その言葉に、葉月は少しホッとしていた。




「そっか」

「そう。俺が自分から好きになって付き合ったのは、葉月が初めてだよ」

「え? そうなの?」

「うん」




その瞬間、葉月の不安がみるみる消えていった。




「ちゃんと話してくれてありがとう」

「どういたしまして」




そこで二人はフフッと笑った。





その時、賢太郎の背後でドアが閉まる音がした。

航太郎が部屋に戻ってきたようだ。





「航太郎、お母さんだよ!」





賢太郎は航太郎に携帯を渡した。





「もしもし、母ちゃん? 今日さ、すっごくいい写真が撮れたんだ! 帰ったら見せるね」

「聞いたわ。楽しみにしてるね」

「でさ、明日はSLとアプト式鉄道両方に乗ってから帰るから!」

「乗りたかったやつに乗れるんだ? 良かったね」

「うん、もう最高! お土産も買って帰るから」

「ありがとう。気を付けて帰ってらっしゃいよ」

「はーい! じゃあおやすみー!」





航太郎は携帯を賢太郎に返した。





「じゃ、明日は夕方までには戻るよ」

「うん。気を付けてね」

「じゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」





そこで二人は電話を終えた。






それから、一ヶ月の月日が流れた。

葉月が庭の手入れをしていると、隣のアパートから莉々子が顔を出した。





「葉月ちゃんおはよー!」

「あ、莉々子さんおはよう! 体調はどう?」

「うん。やーっとつわりがおさまったわ」

「それはよかったー」

「でも今度は食欲がすごくてさ、どんどん太っちゃって困ってるの」

「そうなんだ。でも雅也さんがしっかり管理してくれてるんでしょう?」

「そうなのよ。毎日の体重の推移をグラフにしてお説教よ! まったく、これだからIT系は……」

「それだけ、莉々子さんと赤ちゃんのことが心配なんだよ。いい旦那さんじゃない!」

「そうかなぁ? あ、それより、葉月ちゃんは先週で仕事辞めたんでしょう?」

「うん。急にフリータイムがいっぱいできたから、ちょっと戸惑ってる」

「いいんじゃないの。今まで忙しくしてきたんだから、これからのーんびり羽を伸ばせば」

「そうなんだけど、こういうのってあまり慣れてないからさぁ……」

「あ、でも、アクセサリー作り再開するって、言ってたよね?」

「うん。今日手芸屋さんに行ってこようと思ってる」

「わぁ、だったら作ったら見せてね! 私、貝殻のネックレスとピアスが欲しいんだぁ」

「わかった。できたら声かけるね」





莉々子とのお喋りを終えて家に戻ると、ちょうど賢太郎が二階の仕事部屋から降りて来た。





「今日は、リフォームの打ち合わせと、あとは…手芸屋さんに寄りたいんだっけ?」

「そう」

「じゃあ、ランチは外でしようか?」

「わぁ、やった!」





葉月は、庭で摘んだカモミールとセージを花瓶に生けながら喜んだ。

そんな葉月に近付いた賢太郎は、ふいに後ろから彼女を抱き締めた。





「どうしたの?」

「でさ、ランチから帰ったら…アレね」

「アレ?」

「ベッド!」

「ふふっ、また?」

「あ、その言い方は傷つくなぁ。俺は毎日だって葉月を抱きたいのに」

「もう、しょうがないなぁ」





葉月は花瓶から手を離し、くるりと振り向いて賢太郎を見上げた。

そして、優しい笑みを浮かべながら、背伸びをしてそっとキスをした。

その瞬間、賢太郎の頬が緩む。

賢太郎は葉月をギュッと抱き締めると、今度は自分から葉月にキスをする。




幸福感に包まれながら、葉月は思った。




素敵な恋愛をするためには、自分が理想とする『恋人の条件』を明確にすることが大切だと。

条件を曖昧にしたまま、なんとなく流されて付き合う恋愛は、長続きしない。



葉月がその『条件』を明確にした途端、運命の人と出逢った。

これは、ただの偶然なんかではない。

理想のパートナーは、明らかに葉月が自ら引き寄せたのだ。





(だから私は、この素敵な人と、おばあちゃんになってもずっと一緒にいるわ。腰が曲がっても白髪になっても、こうしてキスをしたり、夜遅くまで語り合いながら暮らしていくの。ふふっ、きっと素敵な人生になるわね……)





葉月は今、幸福感に満たされていた。

嬉しさのあまり、思わずギュッと賢太郎を抱き締める。

それに気づいた賢太郎は、それに応えるように葉月をさらに強く抱き締めた。




燦々と太陽の光が降り注ぐ海辺の白い家には、再び昔のような賑やかな日々が戻ってくる。

海を見下ろすこの庭にも、潮風を感じながら、またたくさんの優しい人々が集うことだろう。


<了>

画像


★★★本日、無事に完結いたしました。

最後までお付き合いいただき、心から感謝です。

毎日たくさんのコメントや応援をいただき、とても励みになりました。本当に有難うございましたm(__)m✨

このあとは、『Protect Love』という作品の連載がスタートします。

少し切ない物語ですが、最後は思い切りハッピーエンドに仕上げてありますので、

もしご興味があるようでしたら、ぜひまた遊びに来てくださいね♪ 瑠璃マリコ★★★

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