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アルディンが神石の鎮座する最上階へ向かっていたちょうどその頃、
中央監視室の空気を震わせるように通信端末が鳴った。
着信: ラマズド科学技術長官。
「――プツッ」
『ザルガン。塔の進捗はどうなっている』
「準備は整いつつあります。ですが、完全な共鳴制御には数日を要します。
ジン博士には“バリア強化実験”と説明してありますので、不審は抱かれていません」
『よろしい。博士に真実を嗅ぎ付かれては困る。予定どおり、光圧を下げてバリアの抑制域をさらに小さくする。神石が沈黙すれば王の防壁は崩れる。それが我ら“ズドーラ家”が王史に再び名を刻む第一歩となる』
「……家の名誉、ですか」 ザルガンの声にわずかな苦笑が混じった。
『お前もわかっているはずだ。かつて“王の盾”と呼ばれた我が家が、いまや属国の研究官の末席に沈んでいる現状を。だが、リヴァン首相に忠誠を尽くせば、再び栄光の座に戻れる。その時が来れば、新しい王も我らを無視できまい』
「承知しました。……ですが父上、塔の反応が以前より不安定です。計画を急げば、予想外の事象が……」
『恐れるな、ザルガン。お前の血には“あの力”が流れている。神石は必ず、お前に応える。
……父としても、私は信じている』
通信が途切れた。
ザルガンは無言のまま端末を握りしめる。指先がわずかに震え、唇にかすかな笑みが浮かんだ。
「……“父上”の望む未来か。ならば見せてやろう……この世界の再構築を」
その瞬間、瞳の奥に冷たい光が燃え上がる。それに応じるように塔の最上階に鎮座する、
ライト・イエロー・エナジーストーンが、淡く脈打つように光を揺らめかせた。
――王都リュカ街
行政区首相府官邸 首相補佐官室。
厚い防音壁に囲まれた部屋は、外界の喧騒を完全に遮断していた。
机上のランプだけが二人の顔を淡く照らし、静寂は時計の針の音さえ呑み込んでいる。
ラマズド科学技術長官が低く告げた。
「ザルガンから報告があった。計画は順調だ」
「兄上……。これでようやく先代の恨みを晴らせるのですね」
マラー首相補佐官の目がかすかに輝く。ラマズドは静かにうなずき窓辺へ歩み寄った。
窓の外では、王都上空に虹色のエルフ・バリアがたなびいている。
美しく揺れるその光は、ラマズドの瞳には“王を守る檻”そのものに見えていた。
「我らズドーラ家は、何百年もドラン帝王を支えてきた。だが先の大戦で、ジン博士の“エルフ・バリア塔”により、我らの創造したモンスターたちは光分子化された。血と知識を尽くした創造の力が、あの男の科学に葬られたのだ。敗戦後、和平協定により我が故郷である帝国は、イーサム王国の属国となり地に堕ちた」
ラマズド声の底に、深い悲哀と怒りが同時に滲む。
マラー首相補佐官は沈んだ声で応じた。
「ドラン帝王陛下もイーサム王も結局は同じ血脈。
あの大戦も“エルフエナジー”をめぐる相続争いにすぎません。
我らは功績を捧げ続け、ただ王の威厳を守るための駒にされてきた……。
誇りは踏みにじられ、名誉は飾りとして扱われ続けたのです」
ラマズドはその言葉を静かに聞き、やがて微笑みを浮かべた。
「……だが今度は違う。
帝国とイーサム――二つの王族が築いた秩序は崩れようとしている。
我らズドーラの血が、本来の“創造”を取り戻す時が来たのだ」
マラーは一瞬唇を引き結び、静かに口を開く。
「ですが、
私は今でも帝王ドラン陛下の恩を忘れておりません。
暴君ではあったが、“秩序”を信じておられた。
私はその秩序を守るためだけに忠誠を捧げてきたのです。
だが今、リヴァン様こそが新たな秩序を築こうとしておられる。
正しき支配者に仕えることで、我らの血は再び誇りを取り戻せます」
ラマズドは振り返り、弟の目を見据えた。
「変わらぬな、マラー。
恩義と忠義を語りながら、誰よりも冷静だ。
ならば、その忠義を今度こそ家の未来に報いてもらおう」
ランプの炎が揺れ、兄弟の影が壁に伸びる。
沈黙を裂くように、通信端末の受信灯が点滅した。
「イーサム王室側近バルティスより通達。
“翌朝、王室は臨時御前会議を開く。
首相リヴァン、および首相府関係者は登城のこと”」
マラーの声に、ラマズドは顎に手を当てた。
「動いたか。タイミングが早い」
マラーがタブレットを操作しながら続ける。
「ザルガンからの進捗です。
抑制域の低下率75%。共鳴は安定傾向ですが……
塔躯体へのストレス反応が強まっています」
「想定の範囲だ。
エルフ・バリアが沈黙するまで、あと一歩だ」
その時、秘書室の扉が音もなく開いた。
リヴァン・カイザ首相が入室する。
灰色の外套をまとい、瞳は深い夜のように冷たかった。
「王室からの招聘命令、受け取った」
彼は二人を見渡し、わずかに口角を上げる。
「この会議で私は“王のための決断”を下す。
だがその決断は王の意志ではない。
この国を王という檻から解き放つ“新しい秩序”の宣言となる。
そのためには、レプリカ王族の力が必要だ」
その瞬間、
リヴァンの胸奥で見えない歯車が噛み合った。
≪そうだ。それでいい。王は器にすぎぬ≫
≪決断せよ。秩序を与えよ。お前こそが“選ばれた王”≫
≪迷うな。お前が選んだのだ≫
≪今はお前の理性を生かす……我とお前は一心同体≫
”赤黒い眼”から発せられるねっとりとした声が、
リヴァン・カイザーの意識の底にゆっくりと染み込んでいく。
リヴァンの瞳に淡く闇が走り、すぐに消えた。
「……我らの時代が来る。レプリカ王子と王女の教育の状況は?」
ラマズドは深く頷き、続けた。
コメント
1件
わあ〜第34話!陰謀がじわじわ進んでる感じがたまらないね😭💕 ラマズド長官とザルガンの親子っぽい関係が明らかになって、しかもリヴァン首相の中の“赤黒い眼”…!?それにズドーラ家の過去の因縁も重なって、世界観の厚みがすごい…。王を檻から解き放つっていうセリフ、めっちゃエモくてゾクゾクしたよ。 次回の御前会議、どうなるんだろう!!緊張が止まらない〜⋆♡