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うう…さっきの子に同情している暇があったら動機を考え直せばよかったよ…!

「そう。待たせてごめんなさいね。じゃ、そこに座って。…ってあなた、よくうちに食べに来てくれる子よね?」

「え、あ、はい…!」

「やっぱりぃ。いっつもすっごいたくさんのデザート食べてくれるもんね。甘いもの、好きなの?」

「は、はぁ…」

ど、どうしよう…!

わたしも覚えられていたよ…!

しかも『すっごいたくさんのデザートを食べてくれる子』って…

わたし、そんな食いしん坊イメージで覚えられてたの!?ショック!!

「デザートったら1品が普通なのに、あなたったらケーキはいつも2、3コが当たり前だし、たまにパフェやプレートまで追加するし…。ふふ、『あんな小っちゃい身体して、どうしてあんなに食べられるんだ』って、スタッフの中でも話題なのよ」

えー!

話題!?

ますます絶体絶命!

た、確かに…いつもデザートの注文は2、3品が当たり前だけど…そんなに目立つことだったかなぁあ??

ほんとは榊くんのケーキなら5品はイケるんだけど、さすがにと思って控えていたんだけど…。

だって、我が家はみんなそれくらい食べるのが当たり前なのに…!!

「大好きなのね、甘いものが。いつも本当に美味しそうに食べてくれるから、私もスタッフのみんなもよろこんでいるのよ」

そっか…。

ならよかった…迷惑には思われてないんだな…。

祥子さんのきれいな笑顔に、ちょっと心が落ち着いた。

代わりの志望動機はまだ全然思いつかないけど、とにかく何か返答しなきゃ。しゃべっている内になにか思いつくかもだし。

わたしは強張った笑顔を浮かべながら答えた。

「あの、だ、だって、ここのスイーツって本当にどれも美味しくて大好きなんです…。パフェもワッフルもすっごく美味しい…。なかでもケーキが一番好きで…」

「あらそうなの?うちのはどこにでもあるシンプルなものだし、職人だって修行積んできたとか、どこかの学校に行ったとかじゃない、ホントの素人なんだけれど」

知ってます…。

でも、榊くんのケーキはわたしにとってはすごく特別なんです…。

「シンプルさの中にも、ほっとする何かがあるんです。うまく…言えないんですけれど…どれも他のお店では味わえない美味しさなんです」

「そうなの」

祥子さんは、ひときわうれしそうに微笑んだ。

「作り手が聞いたらよろこぶわ」

その時だった。

店の奥から、誰かがやってきた。

気だるげに入ってきた瞬間引きつけられてしまう、高い身長と、ちょっと怖いくらいのキリっと整ったきれいな顔…。

スイーツと同じくらい大好きな、わたしの憧れの男の子…。

榊晴友くん。

いつものギャルソンスタイルとはちがう、ブレザー姿。

大人っぽいから大学生ってこともありうる、って思っていたんだけれど…同じ高校生なんだ。

年上ならハードル高いなって思っていたけれど、これでほんのちょっぴり低くなったかな…?

うう…

それにしてもブレザー姿もすっごくかっこいい。

意外なことに、榊くんはわたしを見た早々、気だるげな様子からは一変、目を丸くしてすっごい驚いたような表情を浮かべた。

「あら、ちょうどいいところへ。晴友、この子覚えてるでしょ?いっつも来てくれているファイ…じゃなかった、かわいいお客さまよ」

「ああ」

素っ気ない返事だったけど、声のニュアンスはわたしのことを知っているような感じだった。

歳が近いだけじゃなくて、わたしのことも覚えていてくれていたなんて…!

うれしすぎる!

って、思わずへらっとなりながら、ぺこっと頭を下げると、榊くんは目をそらして眉間にしわを寄せた。

「また面接?」

「そう。いい加減、新しいスタッフを入れないとあんたたちホールもしんどいでしょ?」

「別に。不真面目なヤツ入れて足引っ張られるよりずっとまし」

不真面目…。

それって、さっき言われていた好きな人にばかり夢中って子のことかな…。

やっぱり、榊くんもそういう子を迷惑に思っているんだな…。

カラン。

そこへ、宅配業者の人がお店に入ってきた。

「ごめん、ちょっと待ってね」

祥子さんはわたしに手を合わせて業者さんの応対をした。

すこし話をすると、そのまま一緒にお店の奥に消えてしまう。

あれ…。

じわっと変な汗が出るのを感じた。

だって、今の状況って…

わたしと榊くんのふたりきりなんだもん…!

うれしいような…困るような…ど、どうしよう!

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