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第21話 科学の人
配信
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
画面に現れたまひろは、今日はうす緑シャツに黄色チェックのベスト、こげ茶の半ズボン。胸ポケットには小さなボールペンがささっていて、まるで小さな研究者のような姿。ぱっつん前髪の下の大きな瞳が、無垢な光を宿していた。
隣のミウは、淡いグレーのブラウスにピンクのジャケット、ベージュのスカート。髪はすっきりまとめ、耳にはパールのイヤリング。落ち着いた微笑みを浮かべ、視聴者を安心させる雰囲気を漂わせていた。
まひろが少し迷うように声を出す。
「ねぇミウおねえちゃん。ぼく、テレビで有名な研究者さんを見たんだ。すごく賢くて、研究成果もいっぱいある人なんだけど……ほんとかなって心配になっちゃった」
コメント欄がざわつく。「誰?」「あの人でしょ」と視聴者が反応する。
「だってね、その人が発表した論文の一部だけ切り取られて、“お金のためにやってるんじゃないか”って言われてたんだ。ぼく……ちょっと怖いなって」
疑惑の芽生え
ミウがふんわりと首をかしげ、やさしく笑う。
「え〜♡ 科学って人のためにあるはずなのにぃ……もし利権のために嘘をついてたら、ちょっと悲しいよねぇ」
まひろは小さくうなずき、無垢な声で続ける。
「ぼくはただ、“ほんとに信じていいのかな”って思っただけなんだ」
コメント欄は「製薬とか怪しいよね」「論文って難しいけど信用していいの?」と不安で埋まっていった。
レイNews記事化
その夜、「レイNews」には記事が並んだ。
記事は専門的な単語を多用しつつ、都合よくグラフを切り取り「嘘に見える構図」を作り出していた。
裏では、ミウが過去の論文から無関係なデータを抜き出し、研究者H氏の成果と並べて掲載。読者に「数字を盛っている」と錯覚させる仕掛けが施されていた。
群衆の暴走
翌日SNSは「#科学は嘘」で溢れた。
「やっぱり研究って金のため」「病気の人を利用してる」
「学者なんて信じられない」
まとめサイトは「科学者の闇」として記事を量産。
ワイドショーでは「一般人にわかりやすく」と称し、グラフを派手に加工して放送。
結果、研究者H氏は講演依頼を次々にキャンセルされ、研究室への資金も減額された。
業界全体に「科学者=嘘をつく人」というイメージが広がっていった。
クライマックス
数日後、H氏は会見を開き「データの捏造は一切ない」と否定。
だが翌日の記事はこうだった。
「否定会見=やましい証拠?」
真実を語っても、それすら「疑惑を強める」材料として利用された。
結末
夜の配信。
まひろはチェックベストの裾をいじり、無垢な瞳でカメラを見た。
「ぼく……ただ“ほんとかな”って思っただけなのに」
ミウはやさしく頷き、ふんわり笑う。
「え〜♡ でも、みんなで考えるきっかけになったんだから素敵だよね。
科学ってほんとは、人を幸せにするものであってほしいもん♡」
コメント欄は「気づかせてくれてありがとう」「科学も信用できなくなった」とざわついた。
その裏で、ミウのPCには“次のターゲット”の見出しが並んでいた。
「教育者の不祥事」「政治家の身辺」「新興企業の資金源」。
記事の雛形はすでに完成していた。
無垢な声とふんわり同意、その裏で“科学”そのものが信頼を失っていった。