テラーノベル
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テントのペグを引き抜く音。ガサガサとブルーシートをたたむ音。
片付けが進むキャンプ場の中、3人は無言でそれぞれの作業を進めていた。
蓮司「……日下部、それ、どう考えても詰め方おかしい。バッグの外に寝袋ついてんの、野営ガチ勢だけだよ?」
日下部「中に入らなかった」
遥「もうちょい考えろよ……」
日下部「無理だった。遥、おまえの荷物、軽すぎじゃねえか?」
遥「寝袋持ってきてない。てか寒かった」
蓮司「……え、お前テントで寝てない?」
遥「起きてた」
蓮司「怖いなおまえ。あの夜中に、焚き火のとこで一人ぼーっとしてる高校生、ホラーだぞ」
遥「……お前が寝てたからだろ」
蓮司「俺のせいか。そうか」
荷物が整うと、3人はなんとなく歩き出す。
駅までの山道、くだらない話も、まともな話も、どっちも特に出てこない。
でも、不思議と沈黙が嫌じゃない。
蓮司「……帰ったら風呂入りてぇ」
日下部「着替え、ない」
遥「俺、洗濯してない。ずっと同じ服」
蓮司「お前だけ漂う“帰れない感”。いや実際、服より魂の洗濯必要でしょ」
遥「……殺すぞ」
蓮司「はいはい、元気で何より」
駅が見えてくる。日差しが強くなってきて、蓮司が小さく目を細めた。
蓮司「んー、なんかさ。……別に仲良くなったわけじゃねーのに、こうやって時間潰せるのって、ちょっとだけ、変じゃね?」
遥「変だな」
日下部「……変だけど、いい」
蓮司「……うわ、今のめっちゃ真顔で言ったな。ずるいな、そういうの」
遥「お前が言うなよ」
蓮司「自覚あるけど?」
電車の音が近づく。
ホームに立って、特に話さないまま、同じ方向を見ている。
誰も“また来よう”とは言わないけど、誰も“二度とやらない”とも言わなかった。
それが、この3人にとってのちょうどいい“距離感”だった。
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