テラーノベル
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キャンプの翌週。夏の気怠い空気が、教室の隅でじわじわと膨らんでいた。
遥が筆箱を開けると、中に小さなメモ用紙が折りたたまれて入っていた。
それは、いつの間にか誰かに入れられたものだった。
『お前と関わってるやつも、同じ目で見られてるよ』
小さな紙切れ。誰の筆跡でもなかった。
遥は数秒眺めたあと、何も言わずに丸めてゴミ箱に投げた。
それだけで終わる話――のはずだった。
だが昼休み、日下部の机にチョークで小さく落書きがされていた。
『同類』
日下部は無言で消した。顔には出さなかったが、手の動きがほんの少しだけ乱れていた。
蓮司は昼の相談室でそれを聞いたあと、軽く笑った。
「……ま、ありがちじゃん。“お前のせいで周りも巻き込まれる”ってやつ。好きなやつがよく使うんだよね、支配と正義を間違えてるタイプが」
遥は、何も言わなかった。
蓮司「で、どうすんの? ”距離置くべき”ムーブ、やる? ヒロイン風にさ」
遥「……バカみてぇ」
蓮司「正解」
日下部はチョークの汚れが落ちない手で、ポケットに何かをぎゅっと握り込んでいた。
それが怒りか、悔しさか、ただの不快感かは分からない。
でもその日だけは、3人とも少しだけ沈黙が長かった。
蓮司が窓を開けて、空を見ながら言った。
「……ま、別に俺ら、好かれてねーし?」
遥「うん」
日下部「……関係ない」
遥がうっすら笑って言う。
「俺、昔から言われてた。『お前が話すと全部壊れる』って」
蓮司「じゃあ話せばいいんじゃね? 壊れきった方が楽だろ」
遥「……バカか」
日下部は何も言わなかった。けれど、遥のほうを一度だけ見た。
壊れかけたバランスは、ぎりぎりのところで立っていた。
何かが崩れそうで、でもまだ――崩れない。
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