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コンビニで買い物を済ませ、今度は駅に向かう。
ここ、童ノ宮市では唯一の鉄道駅舎で住民たちにとっては貴重な交通網だ。そのせいか駅が近づくにつれ、まばらだった通行人の数が次第に増えて行った。
やがて視界が開け――、俺の向かう先に童ノ宮駅が見えてきた。
先日改修工事が終わったばかりの駅舎は小作りながらも瀟洒で美しく、周囲の歩道は赤茶色のレンガ風の素材で舗装されていた。
そこに子供が五、六人立っているのが見えた。男のと女の子が半々……。
全員、制服姿。童ノ宮第二中学校の生徒たちだ。
彼らは皆、チラシを手に駅を出入りする人々に声をかけていた。
しかし、通行人たちは大半がスルーし子供達の前を通り過ぎるだけで、ごくまれに彼らと目も合わさず無言でひったくるようにしてチラシを受け取っていくだけ。
まったく、最近の若いやつらは……。
思わず俺は苦い顔になる。
皆、それぞれの仕事や生活で忙しいのはわかる。だけど、まだ年端もいかない子供たちが往来に立ちっぱなしであんたらに助けを求めているんだ。
ちょっと立ち止まって話を聞いてやるぐらいのことをしたってバチは当たらないんじゃないのか……。
何とも言葉にしがたい嫌な感情が喉元まで込み上げ、俺は息を吐いていた。
それからパンパンに膨れ上がったコンビニ袋の取っ手が手のひらに食い込むのを感じながら、
「――やあ、君達。毎日、ご苦労さん。……俺、応援に来たんだけど」
俺は中学生達に話しかけた。
できるだけぶっきらぼうにならないよう、柔らか目の声で。
通行人への呼びかけが止まり、彼らの目が俺に集中。
俺の職場がスーパーということもあって、一度は見かけたことのある顔ばかりだった。
田舎の中学生という意識が俺にあるせいか、どの子も純朴そうに見える。
おずおずと進み出てきたのは、青白い顔つきの男の子だった。
見たことがあるとは言え、状況的にはほぼ初対面。なのに生真面目で賢そうに見えるのは黒縁の眼鏡のせいかもしれない。
「……あの、スーパーつかもりの店員さん、ですよね? お手伝いをしてくれる、っていうことでいいですか?」
「うん。まあ、そんなところだね」
ちょっと肩を竦めて俺は眼鏡の子にコンビニの買い物袋を手渡す。
「はい、これ差し入れ。休憩する時にでも、みんなで分けて食べてくれ」
それを受け取り眼鏡君はありがとうございます、と恐縮してみせる。
それからチラリと眼鏡越しに俺を見上げ、
「あの、今の状況なんですけど……」
「うん」
「僕らは四班ぐらいに分かれてて――、今日の午前中はお隣の夢ノ宮市の駅前と地元の小学校と中学校にもチラシの配布のお願いをしてるところです」
「そうか。いろいろと大変だったね。……君達以外の人は?」
「大人は――彼女にご家族も含めて、消防や警察と協力して山を捜索しているみたいですね。だから僕らは街中を……」
眼鏡君の年相応に幼い表情には疲労が滲んでいた。
「女の子が一人で山に入っていくか、と言われたら疑問ですけど……。あそこには割と広めのキャンプ場があるじゃないですか。今はシーズンオフだけど、ひょっとしたらそこにいるのかもって」
「なるほど……。じゃあ、俺もここから同行させてもらう。何かの役に立てたらいいんだが」
「ありがとうございます。大人が一緒の方が心強いです」
ここでようやく眼鏡君は笑顔を見せてくれる。
「ええっと、店員さんのお名前は?」
「鳥羽リョウ。……まあ鳥羽さんでも店員さんでも、君らの好きなように呼んでくれていいよ」
冗談と受け取ったのか眼鏡君は気まずそうに笑ったが、本当に俺の名前なんかどうでもいい。そんなことよりも、もっと気になることがあった。
「ところで君達と同じ班に神社の――童ノ宮の娘がいるって聞いたんだが。あの子、俺の知り合いなんだ」
「あ、塚森さんですか?」
俺の言葉に眼鏡君の表情が一瞬やわらぎ、すぐにまた曇る。
「彼女、ずっと頑張ってたせいか具合が悪くって。みんなも今日は休んだ方がいいって言ったんですけど……」
困り切った表情で眼鏡君が後ろをふり返った。
釣られて俺もそちらに目を向ける。
キミカがいた。
コンビニの前に設置されたベンチに腰かけている。
キミカは、俺が長年、世話になっている塚森家が六年前、養女として迎えた娘だ。
今年で十三歳になる。つまり、ここにいる子供達と同じ年頃だが、彼らと比べるとかなり華奢で小柄だから小学生に見えないこともない。
ベンチに座ったままのキミカは眼鏡君の言う通り、明らかに辛そうな様子だった。
そのまま前に転倒してしまうのではないかと心配になるくらい頭を深くうつむかせ、膝の上に固くにぎりしめた拳を乗せた姿勢のまま、微動だにしない。
また何かにちょっかいをかけられたのか、それとも……。
取り敢えず俺はキミカに向かって手を振り、呼びかけようとして――思わず、ギョッとなる。
キミカは泣いていた。
かぼそい肩を細かく震わせ続けながら。
ポロポロ、ポロポロと。
かすかに栗色がかかった瞳から涙が次から次へと溢れ出し、丸みを帯びた頬を濡らしていた。
そのあまりにも痛々しい姿に俺は胸が詰まる――、どころか一瞬、呼吸ができなくなる。
動悸が激しくなり、背中に冷や汗がドッと溢れるのを感じる。
……全く、勘弁してくれ。
あの子のあんな姿を見せつけられるぐらいなら、怪異に頭を食いちぎられる方がまだマシだ。
俺は眼鏡君に目配せをして礼を伝え、キミカへと向かって歩いて行った。