ところが、ウォルはいつも趣味の良い色あわせの衣を着こなしている。
腰には金と玉の飾りが付いた、豪華な剣を差しているから、武人なのだろう……か。
しかし、体つきはとても華奢《きゃしゃ》で、上背《うわぜい》があることを除けば女のミヒとそう変わらない。
面差《おめざ》しも、傷一つ見られず、たたえる眼差しには雄々しさもない。
歳もミヒと近い気がする……。
「来月、お邪魔していいかな?しばらく、ミヒの側にいたいんだ」
言いながら、ウォルは身震いした。
まだまだ、朝は花冷えが厳しい。
来月、王は妃を迎える。そうなれば、しばらくジオンはここへ通うことはないだろう。
ウォルは、そう言っているのだ。
「心配しているの?私は、大丈夫よ」
「たぶん。でしょ?だから、側にいてあげる」
ジオンとは違う、まるで兄のような眼差しをミヒは感じた。
「おい、私のミヒを口説いているのは、どこのどいつだ?」
吉祥模様の桟《さん》が渡る、明かり障子を開けるジオンの姿。
「これはご機嫌よろしゅう」
「ウォル、ミヒを口説くとはどういう了見だ?」
「男なら、ミヒを見て口説かないはずがないでしょう?」
ふんと鼻であしらいながら、ジオンは頭を垂れるウォルを促した。
ウォルは、ジオンの美郎兵として、長年側に仕えていた。
このあたりでは、小姓と呼ぶようだが、ジオンが元々治めていた土地には、幼少の時より自分が育てあげた青年を、側に置く習慣があった。
王の威厳を際だたせる為の役目であるが、往々にして、情が加わり、王の寵妾となる運命をたどる。
もちろん、ウォルもジオンにすべてを捧げていた。それが、誉れであり、ウォル達にとっては、特に驚くことではない。
ただ、この地では、男色家と色眼鏡で見られるため、ウォルの素性は伏せられていた。
「すまない、ミヒ。ウォルにも朝餉の用意をしてやれないだろうか?」
ジオンの言葉に、ミヒは小さく頷いた。
わかっている。これは人払いだ。
侍女がちゃんと手配する。何も、ミヒが動く必要などなかった。
言われたままに部屋を出て、ミヒはつかつかと廊下を進んで行った。
歩む歩幅は、ミヒの胸のうちを表しているようだった。
向かいの棟を繋ぐ回廊の突き当たりを左へ曲がり、ミヒは引き戸の前で立ち止まる。
人払いにあった時、決まって逃げ込む部屋だ。