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晴れて、私と龍也は夫婦となった。
会社に報告した直後、何人かの女性社員に無視されるようになったと、龍也が笑って言った。
私も職場に結婚を報告し、三月末日での退職を願い出た。
有給休暇の消化もあるから、実質はあとひと月の出勤となる。
私が結婚を諦めていると知っていた篠塚課長が泣いて喜んでくれるもんだから、私まで泣いてしまった。
私の退職を知った柳さんは、とても寂しがってくれたけれど、私の分まで頑張ると、寿退社を留まった。結婚はするけれど、せめて子供が出来るまでは続けるそうだ。
龍也に釧路への転勤を勧めた溝口さんとも会う機会があった。
ちょっと意地悪そうな笑顔が少し好みだったのは、龍也には内緒。
溝口さんが釧路での住まいを準備してくれることになった。
溝口さんの奥さんの彩さんにも会った。
龍也からは、溝口さん夫婦も色々あって、年末にようやく籍を入れたばかりだと聞いていたけれど、彩さんが年上だからか、長年連れ添った夫婦のように、同じ空気を纏った二人が羨ましく感じた。
麻衣とさなえは寂しがって、頻繁に連絡をくれた。一緒にランチもした。
千尋は、帯広まで迎えに行った有川さんと籍を入れたけれど、その直後から悪阻が始まって、ひと月ほど帯広に留まっていた。
麻衣にきっぱりと振られた陸さんは、ゴールデンウイーク前にイギリスに発つことになった。
そして、三月中旬。
千尋と有川さん、私と龍也の結婚祝い、陸さんの壮行会を兼ねて、大和さんとさなえの家に集まった。
「んじゃ! 色々おめでとう! 頑張れよってことで、かんぱーい!!」
意気揚々と、大和さんがビールの缶を高々と持ち上げた。
「はいはい、ありがとう」と、陸さんが素っ気ない返事をして、缶に口をつける。
「なんだよ、ノリが悪りーな」
「色々とか一括りにしておいて、よく言うよ」
「そーだよ! ちゃんとお祝いしようよ」と、麻衣が陸さんに同調する。
「龍也とあきら、千尋と有川さん、結婚おめでとう!」
「ありがとう!」
私たち四人が声を揃えて言った。
「陸、イギリスに行っても頑張ってね!」
「ん、サンキュ」
「じゃ、カンパーイ!」
「かんぱーい!!」
各々の缶で乾杯をして、口に運ぶ。
お酒が飲めない千尋とさなえはダイニング、私たちはリビングのローテーブルと折り畳みのテーブルを繋げて囲んでいた。
オードブルやおつまみ、お寿司やピザを持ち寄って、有川さんと鶴本くんも一緒に。
鶴本くんは所在なさ気に麻衣の隣にいるけれど、有川さんは千尋から引きはがされて大和さんに掴まった。
「有川ってさぁ――」と、大和さんがさも昔っからの知り合いかのように、有川さんに言った。
「俺を『陽気で軽そう』って言ったんだって?」
初耳だった。
「それって、チャラいってこと? 心外なんだけど」
「あー、それは千尋にも言われた。『陽気だけど軽くはない』って」と、有川さんが苦笑いをする。
「陸が『インテリ』ってのも納得いかないんだけど」
「いや、納得だろ。第一印象は最悪だったけど、人を見る目はあるな」と、陸さんが頷く。
「どこがだよ。龍也を好青年って言ったらしいぞ」
「うわ、それはないわぁ」
「どうして? 龍也は好青年じゃない」と、麻衣が言った。
「ばっかだな、麻衣。大学ん時からあきら狙いで、なのに彼氏から奪うことも出来なくて他の女を代わりにするような男だぞ? 彼氏と別れて弱ってるあきらにつけ込んでヤッちまうような男のどこが好青年だよ」
珍しく、辛口。
龍也は瞬き多めで視線を逸らす。目が合う前に、私は視線をずらした。
有川さんは意外そうに龍也を見ている。
「そう考えると、なんかムカつくよな。俺たちに黙って好き勝手やって、最後は公開プロポーズでキメてくれやがって」
「男のひがみはみっともないわね」と、私は呟いた。
麻衣が陸さんにハッキリと『一緒にイギリスには行かない』と言ったことは、聞いていた。
「はぁ? なんで俺が――」
「――悔しかったら、金髪碧眼の美女でも連れて帰って来てよ」
「言われなくても連れてくるさ。いやっ! その前に、なんで俺が悔しいんだよ!」
「独りだからだろ」と、大和さんが追い打ちをかける。
「結婚がそんなに偉いかよ!」
「失敗したくせに」と、更に私が止めの一言。
「陸、インテリの皮が剥げてんぞ」
「うるせーよ!」と、陸さんが残りのビールを飲み干した。
「失敗と言えば、有川の離婚の原因って千尋か?」
ゴフッと口に含んだビールを吹き出しかけたのは、有川さんではなくて鶴本くん。
あまりに開けっ広げで驚いたのだろう。
「大和さん。いくらなんでも――」
「違う……けど――」
「――けど?!」と、思わず身を乗り出したのは、麻衣。
麻衣は基本、恋バナが好きだ。
なのに、私も千尋も自分のことを話さないもんだから、麻衣はいつもむくれていた。
「原因は違うけど、決め手は千尋かな」
「どういう意味!?」
「麻衣、食いつき過ぎだから」
「だって! 千尋ってば何にも話してくれないんだもんっ!」
私の言葉に、口を尖らせて麻衣が言った。
「だもん、って……」
ハハハッ、と有川さんが笑った。
「麻衣ちゃんって可愛いな」
「へっ!?」
麻衣が間抜けな声を出す。
「千尋の友達って言うから、あきら? みたいなの想像してたんだけど、麻衣ちゃんもさなえちゃんも全然タイプが違って――」
「――おい! なに人の嫁を『ちゃん』づけとかしてんだよ!」と、大和さん。
「じゃあ、呼び捨て?」と、有川さんは悪びれもせずに言った。
「もっとダメだろ!」