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第11話 善意の旗
配信
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”です!」
画面に登場したまひろは、今日は黄色いトレーナーにカーキ色のハーフパンツ。首元から小さなキーホルダーをぶら下げ、まだ幼さの残る小柄な体をカメラに向けて座っていた。前髪はつやつやのぱっつん、瞳は無垢に光っている。
隣のミウは、ブラウスにグレーのロングカーディガン、淡いピンクのスカート。髪はふんわり巻いて肩にかかり、耳には小さな雫形のイヤリング。落ち着いた微笑みで画面を見守っていた。
まひろが袖をいじりながら、少し困ったように言う。
「ねぇミウおねえちゃん。あるユーチューバーさんが、良いことのために活動してるって人気なんだけど……ぼく、ちょっと心配になっちゃった」
コメント欄に「知ってる!」「あの人正義感あるよね」と書き込みが流れる。
「だって……善意って言うけど、人によっては“排除されてる”って感じる人もいるんじゃないかなぁって」
疑惑の芽生え
ミウが頬に手を当て、ふんわりと首をかしげる。
「え〜♡ いいことをしてるはずなのに、誰かを苦しめてたらちょっと悲しいよねぇ。
旗を振るのは素敵だけどぉ……もしかしたら、その旗で誰かを叩いちゃってるかも?」
まひろは小さくうなずき、無垢な声で続ける。
「ぼくはただ、“ほんとにみんなが幸せになれるのかな”って考えてほしいだけなんだ」
コメント欄には「確かに正しさって怖いときある」「いや、あの人は正しい!」と意見が割れた。
レイNews記事化
翌日、「レイNews」には記事が並んだ。
記事は一見冷静だが、ユーチューバーの言葉を切り取り、「善意=排除」という構図を強調していた。
群衆の暴走
SNSでは「正義の暴走」という言葉が飛び交い始めた。
「助けられた人もいるけど、置いてけぼりにされた人もいる」
「味方にならなきゃ敵って考え方が怖い」
まとめサイトは「正義に疲れる人々」と見出しを打ち、ワイドショーは過去の演説映像をスローで流しながら「圧が強い」とコメント。
結果、支持者同士の衝突が始まり、コミュニティは分断。寄付金も急減し、活動基盤は揺らぎ始めた。
クライマックス
数日後、ユーチューバーA氏は「誰も排除するつもりはない」と動画で否定した。
だが、その言葉はまた切り取られ、翌朝の記事になった。
「排除を否定=やはり排除を意識していた?」
結末
夜の配信。
まひろは黄色いトレーナーの袖をつまみながら、無垢な瞳でカメラに向かって言う。
「ぼく……ただ“みんな幸せかな”って思っただけなのに」
ミウはやさしく微笑み、両手を胸の前で合わせる。
「え〜♡ でも、考えるきっかけになったんだから素敵だよね。
ほんとの正義って、やっぱり難しいんだもん♡」
コメント欄は「気づかせてくれてありがとう」「大事な学びだ」で溢れた。
その裏で、ミウのPCには“次に揺さぶる社会運動”のリストが表示されていた。
見出しはすでに用意され、ターゲットを待つだけだった。
無垢な問いとふんわり同意、その裏で“善意”は分断を生む刃へと変えられていた。