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「アカデミー在校生の皆様、本日は私の婚約者で次期王妃であるフローラ・シュガー公爵令嬢の素晴らしさを伝えたくて、余興を用意させて頂きましたが楽しんで頂けたでしょうか?」
突然、壇上にいる兄ルイスが口を開いた。
美しい澄み切った声が会場に響き渡る。
その声に拍手が巻き起こった。
壇上にいるルイス王太子殿下を見て、強制力がなくなったのを悟った。
黒髪に美しい澄んだ翡翠色の瞳、精悍とした顔つきはまさに次期国王のものであり正統派の王子様だ。
今まで強制力のせいで彼には悪評がついてしまったのに、一瞬でかき消すようなオーラがある
「ルイス王太子殿下、素敵な方だったんですね。最初から、彼とフローラ様が結ばれる物語でよかったと思います。多分、信者はここまでをプロローグで書いてますね、これから、アツ国のルドルフ王太子殿下に愛されるのが本編です」
私は、隣にいるルイ王子に周りに聞こえないように小さな声で囁きかける。
信者はいつだって私より、私のことがわかっているように勘違いしているようだった。
それを不快に思い指摘しようものなら、一気に攻撃的になるとわかっているから何も言えなかった。
珠子は39歳だ、年上に憧れる時期などとうに過ぎている。
「兄上と結ばれたかったですか? 彼はイザベラの好きな正統派王子様ですよ」
ルイ王子が私の耳元で囁いた言葉に軽くショックを受ける。
あれだけ毎日愛を伝えているのに、彼は私の気持ちを信用していないのだろうか。
「私が愛しているのはルイ王子ですよ。愛の試し行動をしてもらっても結構です。ルイ王子が望むなら、崖に咲いた花だって摘みに参ります」
私がルイ王子の耳に囁き返すと、彼は微笑んだ。
「先程、余興にご協力頂いたのは、来月、アツ国の王位につかれるルドルフ・アツ王太子殿下です。我が国とアツ国は国交がございませんが、今後は交流していこうと考えております。アツ国には少年や少女を保護する法律があります。先程、フローラ・シュガー公爵令嬢に求婚するルドルフ殿下に恐怖心を持った在校生の方はご安心ください。レオ国でも少年や少女を守る法律を作る予定です」
流れるように優雅に話す兄ルイスは、強制力がかかっていた彼とは別人だった。
しかも先程のルドルフ王太子の余興というにも行き過ぎた言動も、まるでこれから作る法律のために見せたものだということにしてしまっている。
彼を使えない人間扱いしていたが、彼はとても優秀な方だったようだ。
「イザベラ、ルドルフ王太子殿下の様子を見に行きましょう」
私はルイ王子の声に頷き、2人で会場を出た。
来月、戴冠式と結婚式があるのにルドルフ王太子殿下はレオ国に来てしまったのだ。
本編がこれからはじまるのだとしたら、彼にはまだ強制力がかかり続ける可能性がある。
流石にアツ国に戻ってからも、フローラ様を求め続け雄叫びをあげ続けていたら様々な人に見限られてしまうだろう。