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※遥が日下部宅に泊まってたいつかの日。玲央菜と日下部。
部屋の明かりは暗く落とされていた。リビングの一角、冷めたカップに口をつけたまま、玲央菜はソファに斜めに腰かけていた。
日下部は、その対面。足を投げ出し、スマホをいじるふりをしていた。
「……ちゃんと寝た?」
玲央菜がぼそりと訊く。
日下部は、指を止めずに返す。
「寝た。たぶん」
「“たぶん”?」
「夢見てた。顔が歪んでた。……ま、いつも通り」
玲央菜は一瞬、口元を歪めて笑った。
「そっか。──あの子、ほんと、可哀想だね」
その言い方に、日下部の指が止まる。
「可哀想、ね。……お前が言う?」
「言って何か問題ある?」
玲央菜は目を細め、挑発するように笑う。
「“可哀想”って思ってるよ、ちゃんと。殴ってるときも、踏みつけてるときも、全部。……そう思わなきゃ、飽きるじゃん」
「……性格悪」
「知ってる」
日下部はカップを置き、少しだけ身を起こす。
「ガキの頃から、お前のやること見てきた。遥の髪を切った日も、上履き燃やした日も──泣いてる顔、にやにや見てたのお前だろ」
「うん」
「やめようと思ったことは?」
「ない。──日下部こそ、止めようと思ったことある?」
「ねえよ。だから今、ウチに住まわせてんだろ。“一週間”限定で」
その言葉に、玲央菜は眉を少しだけ寄せた。
「……あんた、本気で庇う気あるわけじゃないよね?」
「あるわけねーだろ」
日下部は笑った。どこか投げやりに。
玲央菜は立ち上がる。
窓辺へ歩き、背を向けたまま呟く。
「でもさ──本当はさ。泣きたくて泣いてるわけじゃないと思うよ」
「知ってる」
「壊れてく姿、見てたい?」
「お前は?」
玲央菜は、窓の外の暗闇を見つめたまま答える。
「見届けたいだけ。壊れるか壊れないか、どっちに転ぶか──最後の瞬間まで」
しばらく沈黙が続いた。
「……お前、やっぱこえぇよ」
「だから、あの子が好きなんでしょ。あんたも、私も」
そう言って、玲央菜は部屋を出ていった。
その背中を、日下部は追いかけなかった。
ただ、静かに、缶を握る指に力を込めていた。
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