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「――ほなね、お父さん。うち、学校行ってくるから……」
「うん。お見舞いに来てくれた先生や友達にお礼を言うのを忘れずにね」
そう言って、玄関からお父さんがうちに向かって手を振る。
まだ顔色が良くないけれど、一人で家の中を動き回れるぐらいには回復したみたいで、うちは少し安心している。
今回、お世話になった白虎機関の医療チームの人達にはいくら感謝しても足りない。肉体的な怪我だけじゃなく、体内に入り込んだ霊毒を消すため尽力してくれた。
そんなことを考えながら――。
透き通るぐらい綺麗な水をたたえた田んぼ沿いの歩道をトボトボ歩きながら、うちは学校を目指す。
正面から吹きつけて来る朝の風はカラッとしていて心地良く、水田に植えられたばかりと思しき瑞々しい稲達の穂を揺らしていた。
ふと、空に視線を転じるとそこに広がるのは目が覚めるような蒼。絵葉書に描かれたかのような美しく澄んだ夏空。雲は白く、何もかもが光り輝いている。
ボンヤリと空を見上げたまま、うちはノロノロと考える。
今回ばかりは絶対に死んだ、と思った。だけど、うちはまだ生きている。
お父さん、リョウ、コウ、ゼナ博士、そして姫宮さんを含めた組織の人達。大勢の大人が命がけで笑ひ岩と戦ってくれたおかげで。
一方、うちはと言うと――、今回、何の役にも立っていない。
ただ動揺し、右往左往していただけ。
祈祷所で不用意に動いたせいでユカリから笑ひ岩の分身を移されて意識を失い、気がついた時は病院のベッドの上だった。
「――ほら見ろ言わんこっちゃない。って、これを言わせるの何回目だよ?」
見舞いにやって来たコウは、うちが口を開くよりも先に言った。唸るような声だった。
「約束だったよな? もし、お祓いの最中、もし何か異変が発生したら、お前は一人でも迷わず外に出て青龍の連中に保護してもらうって。何でそうしなかった?」
「だって……」
乾いた唇を少しなめて濡らし、かすれた声でうちは続けた。
「お父さんが大怪我して、ユカリがエライことになってたし、ユカリの家族もおったし……。うちだけ逃げれるわけないやんか」
「言い訳するな、嘘つき。最初から守る気なんて毛頭なかったんだろお前」
「…………」
「あのな。これも何度も言ってるけど、怪異とやり合うってのは、人喰いの獣だの殺人鬼だのと殺し合うのと同じなんだよ。……で? お前は、何かと殺し合えるようなタフガイか?」
「それは……。だから、うちは外法で神様を――」
「へぇ、自分の血肉を代償に殺し合いの肩代わりを神様に押しつけようって? まるで餌付けだな。お前、ひょっとして稚児天狗を自分の手駒にでもする気か?」
「ち、違うよ! うち、そんなこと思ってへん! うちはただ自分だって誰かを救えるんやって思いたくて――」
「だから、それが思い上がりなんだよ。大体、誰がお前なんかに救って欲しいって言った?」
「もういい。二人とも、やめろ」
重い声でそう言ったのは、うちとコウのやり取りを黙って聞いていたリョウだった。
「リョウちゃん。言わせてもらうけどね、こいつが勘違いしているのはあんたのせいもあるからね? あんたとレイジ叔父さんがこいつを甘やかせるから――」
「やめろと言ってるんだ」
切って捨てるように言い、リョウはギロリとコウを睨みつける。
「甘えている、という意味ならお前だってキミカのことは言えないぞ。外法頭なんて呪物、いつまで使い続ける気なんだ?」
「……は?」
コウが表情を強張らせ――、蹴りつけるようにして椅子から立ち上がる。椅子は派手な音を立てて床に倒れ、うちはその激しさに思わず身をすくませてしまう。
「何だよ、それ。……僕が自分の母親の遺骨でしか外法が生成できない、低能マザコン野郎って言いたいの? だから早く死んだ方がいいって?」
「そこまでは言ってないだろう。前から言おうと思っていたが、コウは被害妄想が過ぎるぞ」
「……あぁ?」
コウもリョウも沈黙し、火花を散らすような睨み合いを続けていた。
身を切り裂くような空気に嫌な汗が滲むのを何も言えなくなり、ただ息を飲むしかできなかった。今にも殴り合いが始まるような雰囲気にうちは凍り付いているしかなかった。
「……あーあ。やってらんねー」
忌々し気に鼻を鳴らし、先に身を引いたのはコウだった。
「悪いけど、子供のヒーローごっこを見せつけられるのはもうウンザリなんだよねぇ。後はあんた達だけで好きにやってくれ」
早口にそう告げ、荒々しくドアを開け病室を出てゆく。
「僕は塚森を抜ける。――レイジ叔父さんにもそう伝えといて」
そう言ったコウの口調には、強がりや冗談を言っている様子は全くなかった。
#異能
#伝奇