テラーノベル
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結婚後、身重の凪子は安定期に入り、ようやくほっと一息つけるようになっていた。
夫の信也は、本業のファッションデザイナーに加えて画家としての活動も始め、以前にも増して忙しい日々を送っている。
それでも妊娠中の凪子を気遣い、出張や深夜に及ぶ仕事は極力控え、夜は必ず一緒に過ごしてくれた。
事務所と自宅が同じ建物内にあるため、仕事が終わればすぐに帰って来られるのもありがたかった。
どうしても外せない会食やパーティーがあっても、ほんの少し顔を出すだけで早々に切り上げ、まっすぐ帰宅するのが常だった。
今の信也は、かつてのプレイボーイの面影をすっかり返上し、誰もが認める愛妻家になっていた。
その思いやりに感謝しつつも、凪子は忙しさが続く彼の体を案じずにはいられなかった。
日曜日の朝。
凪子はキッチンで朝食の準備をしていた。
少し早めに産休に入った彼女は、つわりも落ち着き、以前のように家事をこなすのが日課になっている。
体を動かしている方が調子が良いため、代わりに家事をしようとする信也の申し出を断り、あえて自分で動くようにしていた。
食事ができあがる頃、ちょうど信也が寝室から姿を見せた。
彼はキッチンに立つ凪子の背後へそっと近づき、優しく抱きしめる。
「凪子、おはよう」
「おはよう。もう少し寝てても良かったのに」
「いや、十分寝たよ。朝までぐっすりだ」
穏やかな笑みを浮かべた信也は、凪子の頬に軽くキスをして洗面所へ向かった。
寝起きで乱れた髪に、うっすらと残る髭。信也の気取らないその姿は、ドキッとするほど魅力的だった。
その後ろ姿を見送りながら、凪子は思わず微笑む。
(まったく……朝から色気がだだ漏れなんだから…..)
そう心の中で呟きつつ、手際よく料理をさらに盛り付け、テーブルへ運んだ。
向かい合って穏やかに朝食をとりながら、凪子が尋ねる。
「今日は午後に打ち合わせがあるんでしょ?」
「うん。でも、定時で上がれると思うよ」
「分かった。じゃあ、お夕飯用意しておくね」
「ありがとう。それにしても、結婚してみて分かったよ」
「分かったって、何が?」
「家庭を持つって、こんなに素晴らしいんだなって。凪子と結婚して、本当に良かった……」
信也は照れる様子もなく、まっすぐに言った。
「ふふっ、今さら何よ。あんなに遊んでたくせに……ただ女遊びに飽きただけなんじゃないの?」
「そんなことないさ、本気でそう思ってる。凪子と、これから生まれてくる子供のために、もっともっと頑張ろうって思えるんだ」
その真剣な表情に、凪子の胸はじんわりと温かい幸福で満たされていった。
(この人と再婚して、本当によかった……)
幸せを噛みしめながら、凪子は少し照れたように微笑んだ。
信也が着替えている間、凪子は食器をキッチンへ運ぶ。
そのとき、テーブルの上に置かれた信也の携帯が震え、画面にメッセージの一部が表示された。
【ちょっと信也! あなた結婚したんですって? もうっ、許せないっ! 私がいるのに、いったいどういうことなの? ちゃんと説明してよね。今夜19時にいつもの店で待ってるから!】
(えっ……?)
凪子の心臓が一瞬で冷たくなる。
(どういうこと……? まだ切れてない女がいるってこと?)
その瞬間、以前雑誌の特集で目にした言葉が脳裏をよぎった。
『妻の妊娠中、浮気に走る夫が多い』
心臓がどくどくと脈打ち、一気に不安が押し寄せる。
ちょうどそのとき、廊下から信也の足音が聞こえたので、凪子は慌ててキッチンへ戻った。
部屋に入ってきた信也は、テーブルの上にあるスマホを見つけて言った。
「おっと、忘れるところだった」
そう言って携帯を上着のポケットにしまい、信也は凪子のそばへ歩み寄ると、もう一度そっと頬にキスを落とした。
「じゃあ、行ってくるよ」
「う、うん……行ってらっしゃい」
玄関まで見送った凪子の胸には、重たい不安だけが静かに残っていた。
コメント
7件
エッ?誰…!? 幸せいっぱいの、凪子さんと信也さんの間に、入る隙は無いと思うけどね…
あら、ごめん遊ばせ。 そのメッセージ、あたくしですの(* ̄0ノ ̄*)オォッホホホーーー って19時を1時間も過ぎてるし! 信也さーん、待っててねー♡
あなたは誰ですか? 勝手に、自分は特別って思ってる人なのかな? 凪子さんの胎教に良くないよ〜💦 二人の邪魔しないで〜😣