その頃、凪子はソファーでしばらくボーッとした後、
なんとか気力を振り絞り、シャワーを浴びてからすぐにベッドへ潜り込んだ。
離婚が成立して最高な気分だったはずなのに、今は最低な気分だ。
きっと信也は今頃、若い女性と沖縄での素敵な夜を過ごしているのだろう。
そう思うと涙が溢れてくる。
(本気にした私が馬鹿だったのよ。きっと信也は離婚したばかりの私を励まそうと思ってあんな事を言ったんだわ)
その時凪子はベランダで信也に言われた言葉を思い出していた。
元夫で苦い思いをしたばかりなのに、またすぐに違う男の事で落ち込んでいる自分が情けなくなる。
(大丈夫! 私にはまだ仕事があるわ)
凪子はなんとか前向きな気持ちに切り替えようと、仕事の事を考え始めた。
しかし、やはり頭にチラつくのは信也の笑顔だった。
(信也のあの優しい笑顔は、色々な女性に向けられている彼のトレードマークのようなものなのよ。騙されないで、凪子! 独身に戻ったばかりで、すぐに新しい恋を始める必要なんてないのよ)
凪子はそうやって自分の気持ちに折り合いをつけると、目を瞑って眠りに集中した。
しかし目が冴えて全く眠れない。
その時、凪子はハッとした。
(恋? この胸の痛みはもしかして恋なの?)
凪子はその時、自分が信也に好意を寄せている事をはっきりと認識した。
そこで凪子は、ベッドに横たわったままスマホを手にすると、
『なつみん』ブログの最終章を読み始めた。
【無事に離婚を勝ち取ったあなたは、今きっと晴れ晴れとした気持ちでいるでしょう。自分の力で勝ち取った自由は、あなたの勲章でもあるのです。ここまで頑張ってきた自分の事を大いに褒めてあげて下さい】
そこで凪子はうんと頷く。そして続きを読んだ。
【これからあなたはまた新しい恋に巡り合うかもしれません。ううん、もしかしたらもう既に新しい恋の相手を見つけているかもしれません。その人は、あなたが闘っている間ずっと傍で励まし続けてくれたのでは? あなたはそんな彼に対し特別な想いを寄せているはずです。しかし「また失敗したらどうしよう」「また裏切られたらどうしよう」そんな思いから、一歩前へ踏み出すのを躊躇しているのかもしれません。それは無理もないです。なぜならあなたは今まで散々な目にあってきたのですから】
凪子はそこまで読むと、まさに自分の今の気持ちにピタリとあてはまっていたので続きが気になる。
【あなたにとって本当に大切な人は、あなたの直感が教えてくれます。そんな人がもし見つかったら、その人との時間を大切にしましょう。たとえそれが人生のパートナーとしでではなくてもいいんです。友人として、または仕事仲間としてでもいいんです。とにかく「この人!」と思える人を見つけたら、形にはこだわらずにその人とずっと良い関係を続けていけるよう努力しましょう。人生は意外と短いです。ぼやぼやしていたら、あっという間に人生なんて終わってしまいますよ】
そこで凪子はなるほどと思う。
この先、信也とは仕事を通してずっと付き合いが続いていくのだ。
それと同時に親友としての付き合いも続いていくだろう。
二人がそういう関係である限り、二人の間の絆は決して切れる事はないのだ。
そう思うと凪子は少しホッとした。
そして更に続きを読む。
【最後に、あなたにとって本当に大切な人の見分け方をアドバイスいたします。その方法はこうです。『もし今その人が生死の境を彷徨っていたとします。それを知ったあなたはどうしますか?』その行動が答えです。すぐにでも会いたいと思うならその人はあなたにとって最愛の人です。考え方は常にシンプルです。どうか直感に素直に従って、残りの人生を最愛の人と歩んでみてはいかがでしょうか? ~最後まで読んで下さった読者の皆様へ愛を込めて~なつみん】
凪子はブログを読み終えるとなぜか心が落ち着くのを感じていた。
この『なつみんブログ』には今まで何度も助けられた。ブログ主のなつみんさんには感謝してもしきれない。
(一体どんな女性なのだろう? 会ってみたいな…)
凪子がそんな事を思っていると、突然スマホがけたたましく鳴った。
【緊急地震速報・沖縄県、鹿児島県に大きい揺れが来ます。頭を守って強い揺れに警戒して下さい】
そこで凪子はハッとする。
(沖縄?)
すると次にまたスマホが鳴った。
【沖縄県で震度7の強い地震が発生しました。津波が来る恐れがあります。沖縄県、鹿児島県の沿岸部にお住まいの方は今すぐ高い場所へ避難して下さい】
凪子は慌ててベッドから飛び起きると、リビングへ行きニュースをつけた。
するとどのチャンネルも沖縄で発生した地震のニュースに切り替わっている。
画面の横には津波警報が表示され、アナウンサーが大声を張り上げていた。
「今、津波警報が出ました。津波警報が出ています。沖縄県、鹿児島県、宮崎県の沿岸部にお住いの方は、今すぐ高台へ避難して下さい。えー、今津波警報が出ました! 津波が来ます! 今すぐ速やかに高台まで避難して下さい。時間がありません。命を守る行動を取って下さい。今すぐ、高い場所へ避難して下さい!」
凪子の手は震えていた。そして咄嗟に信也の番号へかけてみる。
もちろん電話は繋がらない。
「こんな時に繋がるわけないわよね……」
凪子はそう呟きながら、ニュースの画面を食い入るように見つめた。
その時、凪子の頭に最悪の事態が浮かんだ。
(信也が滞在しているコンドミニアムは、ちょうど震源域に近い海沿いだわ! どうしよう…大丈夫かな…)
その時、テレビのアナウンサーが大声で叫んだ。
「津波の最大予測は10メートルです! とても大きな津波が来る事が予測されます。今すぐためらわずに避難して下さい。命を守る行動を取って下さい! 至急高い場所へ避難して下さい!」
その緊迫したアナウンサーの声が余計に不安を煽る。
凪子はいてもたってもいられなくなり、もう一度信也に電話をかけてみるが電話は繋がらなかった。
そこで凪子はハッとすると、信也のパソコンのメールアドレス宛にメールを送ってみる事にした。
【津波大丈夫? 心配だから連絡下さい」
しかし1時間経っても2時間経っても返事は帰ってこない。
凪子は心配のあまり胸が張り裂けそうで、瞳は涙に滲んでいた。
コメント
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このタイミングで沖縄に大地震⁉️ 信也さんと連絡取れないのは心配で仕方がない😭 なつみんブログのお陰でつい今し方までモヤモヤしてた気持ちから信也さんに恋をしてる⁉️って気づいたのにー😢 どうか信也さんもスタッフも無事でありますように🙏 でももしかして信也さんは沖縄にはいないかも…🤭💕⁉️