コメント
3件
花純ちゃんをホテルに泊まらせるなんて選択肢は壮馬さんにはない‼️こんな状況だけど花純ちゃんを傍にすることができる。 花純ちゃん早く体調回復しますように‼️
🪴以外全く興味がない花純ンだけど、今は独身の❗️壮馬さんに助けてもらおう。まず体調を整えてから自分と植物のことは考えるべき😾でも狩猟民族の壮馬さんは一度手に入れたらきっと手放してくれないよね〜😉💞🤭
壮馬さん、体調の悪い花純ちゃんを放っておけないよね....😢 体調も勿論だけれど、今後の生活のことも心配😔 どうか彼女も、植物たちも助けてあげてください🙏🍀
アパートの二階へ行くと、花純の部屋のドアは既にこじ開けられていた。
おそらく壁を伝わって内部から延焼していたのだろう。
開いたドアから見える中の惨状はすさまじいものだった。
床も壁も水浸しで、天井からはまだ水が滴っている。
「ひどい……」
花純はショックのあまり声を漏らす。
それからハッとして慌てて窓辺へ駆け寄る。
窓辺に並んでいた観葉植物達は、ほとんどがなぎ倒されて水浸しになっていた。
倒れた鉢からは土がはみ出し悲惨な状態だ。
あまりの酷い状態に、花純はしばらく動けずにいた。
そんな花純を励ます様に壮馬が言う。
「とりあえず貴重品と着替え、あと靴もだな。必要なものは全てまとめなさい。まとめたら俺が車へ運ぶから」
その言葉に花純はハッとする。
「わかりました」
と答えた。
このままボーッとしていても無意味だと気付いた花純は、とりあえず貴重品等の大事なものを空のバッグに詰め始めた。
その袋がいっぱいになると、今度は押し入れからキャリーバッグや旅行バッグを取り出して必要なものを片っ端から詰めてい
く。
会社に行くのに必要な服や靴、それにバッグ類。
押し入れの物はほとんど濡れていないのでそのまま使えそうだ。
洋服類も、多少濡れてはいるが洗濯すれば問題なさそうだ。チェストの奥に入っていた物はほとんどが無害だった。
花純は少しでも多くの物を持ち出そうと、ひたすらバッグに詰めていった。
そんな花純を見ながら壮馬が言った。
「観葉植物も持って行くんだろう?」
そこで花純は苦しそうな表情を浮かべる。
「ビジネスホテルだと、さすがに全部は持っていけないですよね?」
「大丈夫だ。俺が預かってやるから…」
花純が『植物命』なのを知っている壮馬は、そう提案した。
すると花純の顔がパァッと明るくなる。
「本当ですか? ご迷惑ではないですか?」
「大丈夫だ。うちは広いから置く場所はいくらでもある」
その言葉に、花純は目を潤ませながら言った。
「ありがとうございます。ではすぐに用意します」
花純はキッチンの引き出しから大きなビニール袋を何枚か取り出すと、
観葉植物を一つずつ入れ始めた。
すると壮馬がそのビニール袋を手に取った。
「植物は俺がやるから、他の物を準備しなさい」
花純は、まさか副社長にそんな雑用をやらせるなんて…と思ったが、
壮馬は既に植物の鉢を袋に入れ始めていたので、
「すみません」
と言いそのままやってもらう事にした。
荷物は壮馬が四往復して車へ運んだ。
最後の荷造りが済むと、花純は壮馬が戻って来るのを待つ。
そして水浸しになった部屋を眺めながら再び涙ぐむ。
ここは大学時代から住み続けた思い出がいっぱい詰まった部屋だ。
初めての一人暮らしでドキドキした思い出や、
バイト先で失敗し、落ち込んでふて寝した部屋、
就職が決まった時にはこの部屋で一人祝杯を上げ、
社会人になってからは、お給料で少しずつお気に入りの家具を揃えていった。
最近になって漸く全てが揃い、自分にとって最高に居心地の良い部屋が完成したばかりだった。
一言では言い表せないくらい沢山の思い出が詰まった部屋が、一瞬にして無残な姿となってしまった。
もう元の状態には戻れないのだと思うと涙が溢れてくる。
「うっ…うぅっ……..」
体調が悪いせいで気弱になっていたのだろう。
花純は声を出して泣き始める。
その時壮馬が戻ってきた。
泣いている花純を見た壮馬は優しく言った。
「忘れ物はない? そろそろ行こうか?」
泣いているのを見られてしまった花純は、慌てて手で涙を拭うと返事をする。
「はい」
それから二人はアパートを後にした。
車が動き始めると、花純はすぐにスマホで近くのビジネスホテルを検索する。
それに気づいた壮馬が言った。
「ホテルは取らなくていいから」
「えっ? でも……」
「うちには使っていない部屋がいくつもあるから、しばらくはうちにいるといい」
壮馬の言葉を聞いた花純はびっくりした表情になる。
「まさかっ、そんな事は出来ませんっ」
「遠慮するな」
「いえ、ダメです。奥様にまでご迷惑をおかけする訳にはいきませんから」
花純は真剣な表情で言った。
それを聞いた壮馬は、思わずプハッと笑う。
花純が壮馬を既婚者だと思っていると知り、可笑しくて思わず笑ってしまったのだ。
(この子は本当に俺の事を何も知らないんだな…)
壮馬はこれまで、経済雑誌や週刊誌に何度も取り上げられてきた。
大手不動産会社の御曹司でありながら、生まれながらに持ち合わせたビジネスセンスで、社長である父・高城雄馬の右腕となり親子二代でどんどん会社を急成長させている。
そうやって仕事に邁進する一方、私生活では有名モデルや社交界の令嬢達と様々な浮名を流してきた。
そして、これまでに何度も週刊誌にパパラッチされている。
そして最近では壮馬がどんな妻を選ぶのか? どんな美女と結婚するのか? という内容が、定期的にゴシップ雑誌の特集にな
るほどだ。
だから、壮馬が独身な事は誰もが知っている。
それなのに花純はその事を知らなかった。
そんな女性は花純が初めてだった。
(本当に面白い子だな)
壮馬は笑いをこらえながら、助手席にいる花純に言った。
「予想を裏切って申し訳ないが、俺は独身だ。だから君が家に来てもなんの問題もない。それよりもプロジェクトのメンバーが
具合が悪いとわかっているのにホテルへ置き去りにする方が心配だ。君の体調が悪化したら仕事に支障をきたすからね」
(独身だったんだ……)
花純はその時初めて知る。
しかしそうは言っても大企業の副社長の家に世話になるなど、とんでもない事だと思っていた。
こんな事が田舎の祖母に知られたら、常識知らずと叱られるだろう。
「でもこれ以上ご迷惑をおかけする訳にはいかないのでホテルに行きます」
花純は壮馬の申し出を断る。
「見た感じかなり具合が悪そうだが、一人になってもっと悪化したらどうするんだ? 君が倒れたらプロジェクトは滞ってしま
うんだ。それだけは避けたい。だから素直にうちへ来なさい」
そこまで言われると、もうこれ以上断るのは申し訳ないような雰囲気になってくる。
それに体調は刻一刻と悪化していた。
もう寒気と頭にガンガン響くほどの頭痛でどうにかなりそうだった。
そこで花純は諦めたように言う。
「すみません…ではお言葉に甘えて…」
車に乗ってからホッとしたのか、先ほどよりも更に熱が上がってきているような気がする。
心なしか花純の唇は紫色に変化している。
助手席で震えている花純に気付いた壮馬は、暖かな夜だったにも関わらず車のシートヒーターと暖房を最大限にしてくれた。
やがて車は壮馬のマンションがある街へ入った。
街路樹がある美しい通りをしばらく進んだ後、車は大きなタワーマンションの地下駐車場へと入って行った。