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ℝ𝕒𝕟
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こぬぬー(響)
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コメント
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いや、めっちゃ胸が締め付けられたわ……。特に「やった側は残らない。残るのはやられた形だけ」って一文がズシリと来た。遥の無力さ、教師のスルー、群衆の同調圧力、全部がリアルで読んでて息苦しかった。でもこういう描写をちゃんと書けるの、やっぱすごいなって思う。続き、気になるよ🔥
グラウンドの端は、日陰がほとんどなかった。校舎の影が届かない場所だけがぽっかり空いていて、そこに荷物と水の入ったバケツが雑にまとめられている。
体育の後半、自由練習という名目で全体はばらけていたが、その分、視線の届かない場所もはっきりしていた。
教師はトラック側に寄り、数人にだけ声をかけている。こちらには、来ない。
遥はその端に立っていた。さっきの走りのあとで呼吸はまだ浅く、喉の奥がひりついている。膝の擦り傷には乾いた砂が張り付いて、曲げるたびにざらついた痛みが走る。身体のどこも整っていないまま、ただ時間が過ぎるのを待っていた。
その背後に、気配が寄る。
「ちょうどいいじゃん」
軽い声だった。振り返るより先に腕を掴まれ、そのまま引かれる。踏みとどまる余裕はない。
「こっち来いよ」
押されるように歩かされる先は、さっきバケツが置かれていたコンクリートの縁で、その横に体育倉庫の鉄柵がある場所だった。
「固定できんじゃね?」
誰かが言う。その一言で、流れが決まる。
(やばい)
そう思ったときには、もう遅い。
「やめろって」
声に出す。少し強く。だがその瞬間、空気がわずかに冷える。
「は?」
低く返される。
「なんで指図してんの?」
腕をねじられる。背中側に強く引かれ、関節が軋む。
「じっとしてろよ」
力が強い。抵抗すればするほど締め付けがきつくなる。手首にざらついた感触が巻き付く。ロープ。倉庫にあったものだと分かる。
そのまま鉄柵に結ばれる。逃げ場が消える。
「ほら、動けないじゃん」
笑いが重なる。もう片方の腕も引かれ、同じように後ろで縛られる。肩が引き開かれるように痛む。
「待って、やめろって」
さっきよりも荒く声が出る。
「さっきからさ」
背後で声が続く。
「無駄に口答えすんのイラつくんだけど」
結び目がきつく締められる。両手が完全に固定される。体は前に傾いたまま支えがなく、踏ん張るしかない。
「暴れんなよ」
肩を押さえられ、そのまま足を払われるようにして地面に引き倒される。膝が先に当たり、擦り傷がもう一度開くような感覚が走る。
「いいね」
誰かがバケツに手を突っ込む。水音が近くで響く。
「的じゃん」
水風船が手の中で揺れる。
「やめろ」
今度ははっきり言う。
「なんで?」
即答だった。
笑いが重なる。
「やられる側が決めんなよ」
振りかぶられる。
一発目が顔に当たる。水が弾け、冷たさと衝撃が一度に広がる。目に入り、視界がにじむ。
「うわ、いい音」
二発目が肩に当たる。三発目が腹に来る。息が一瞬で詰まる。
「ちゃんと立ってろよ」
肩を掴まれ、無理やり起こされる。倒れないように支えられたまま、次が来る。
顔、胸、脚と続けて当てられ、水が滴り落ちる。服が肌に張り付き、重くなる。笑いは途切れない。
「ほら反応しろよ」
「声出せって」
顔を掴まれ、無理やり上を向かされる。
「なあ」
目を合わせられる。
「今どういう気分?」
言葉が出ない。喉が詰まる。
「言えよ」
頬を叩かれる。軽いが、乾いた音がはっきり響く。
「……やめて」
やっと出る。
一瞬だけ間ができ、そのあとすぐに笑いが戻る。
「出た」
「ちゃんと喋れんじゃん」
「最初からそうしろよ」
誰かがポケットからペンを取り出す。
「ついでにさ」
近づいてくる気配。顔を掴まれる。逃げられない。
ペン先が頬に触れる。冷たい感触が走り、そのまま線が引かれる。
「似合うじゃん」
もう一本、額に引かれる。
「汚い方がそれっぽいって」
笑いが重なる。鼻先や顎にも容赦なくなぞられ、インクの匂いが近くに漂う。
「鏡見せてやりたいな」
誰かがスマホを構える。
「撮っとく?」
「あとで回せばよくね?」
軽い声で言われる。
そのとき、少し離れた場所から教師の声が飛ぶ。
「おい、何してる」
一瞬だけ全員の動きが止まるが、それも長くは続かない。すぐに手が離れ、距離が取られる。
「遊んでただけです」
誰かが言う。声に迷いはない。
ロープがほどかれる。締め付けられていた手首に、じんわりとした痛みが残る。
「戻れ」
教師が言う。遥に向けて。
濡れた服も、顔の落書きも、全部見えているはずなのに、そのどれにも触れない。
「授業中だぞ」
それだけで終わる。
周りは何事もなかったように散っていく。笑いも、会話も、そのまま次に移る。
遥は立ち上がる。服が重く、水が裾から落ちる。顔に触れると、インクが指ににじむ。
ここでは、やった側は残らない。最初からいなかったみたいに消える。
残るのは、やられた形だけで、それがそのまま“問題を起こした側”の証拠として扱われる。
理由は問われない。最初から必要とされていない。