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#暗い過去
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放課後の空き教室。
相談者は椅子に座ってからも、何度も「ごめん」と言っていた。
「……ごめん。急に来て」
遥は相談者を見る。
「相談するのに謝らなくていい」
「うん。ごめん」
「今のも」
「……ごめん」
相談者はそこで、自分でも少し困ったように笑った。
「俺、すぐ謝るんです」
「何に対して?」
「分からない。ちょっと人とぶつかったとか、返信遅れたとか、相手の機嫌が悪かったとか。俺が悪くなくても、とりあえず謝ります」
「なんで?」
「そのほうが早いから」
遥は黙って聞いた。
「相手が怒ってる時に、『俺は悪くない』って言うより、先に謝ったほうが収まるから」
「収まる?」
「うん」
相談者は膝の上で手を握った。
「でも、あとから嫌になるんです。なんで俺が謝ったんだろうって」
「じゃあ、謝らなければいい?」
「それができないんです」
「怖い?」
「……たぶん」
その言葉を聞いて、遥は少しだけ視線を落とした。
怖いなら、謝る。
怒らせたくないなら、謝る。
何かされても、先に自分が悪かったことにする。
そうしていれば、相手の機嫌が戻るかもしれない。
遥には、その感覚が分かった。
分かりすぎるくらいだった。
「俺、自分が悪くない時でも謝るんです」
「うん」
「この前も、友達に急に怒られて。何で怒ってるのか分からなかったけど、謝った」
「そのあと?」
「普通に戻った」
「じゃあ、それでよかった?」
相談者は少し考えた。
「……分からない」
「謝ったことで、何が解決した?」
相談者は答えられなかった。
遥は机の上を見た。
今日も自分の机には、誰かに書かれた文字が残っている。
消そうと思えば消せる程度のものだった。
だから、誰にも言わなかった。
「謝ると、その場は終わることがある」
遥が言った。
「でも、自分が悪かったことまで確定するわけじゃない」
相談者が顔を上げる。
「……でも、謝ったら俺が悪いみたいじゃない?」
「そう思うから嫌なんだろ」
「うん」
「だったら、そこは分けていいと思う」
遥は少し迷ってから続けた。
「『ごめん』じゃなくて、『そうだったんだ』とか、『今は返せない』とか。相手が怒ってることと、自分が悪いことを同じにしなくていい」
相談者は黙って聞いていた。
「でも、それ言ったら、相手がもっと怒るかもしれない」
「そうかもしれない」
遥は否定しなかった。
「だから、怖いなら無理に言わなくてもいい」
相談者が意外そうな顔をする。
「え?」
「謝らない練習をしろって言われても、できない時はあるだろ」
「……うん」
「ただ、謝ったあとに、自分まで悪かったことにしなくていい」
その言葉を口にした瞬間、遥自身の胸に引っかかった。
自分だって、いつもそうしている。
何かされる。
何も言わない。
それでも最後には、自分が悪かったと思う。
邪魔だったから。
弱かったから。
嫌われるようなことをしたから。
そう考えれば、相手の行動を考えなくて済む。
自分が悪いことにしてしまえば、世界のほうが分かりやすい。
相談者が小さく息を吐いた。
「……俺、謝ったあとに『俺が悪かったんだ』って思うところまでセットなんです」
「そこまでしなくていい」
遥はすぐに答えた。
「謝ったのは、その場を終わらせたかっただけかもしれないだろ」
「……それでもいい?」
「いいと思う」
相談者はしばらく考えていた。
「じゃあ、次に謝りそうになった時、一回だけ考えてみます」
「何を?」
「本当に俺が悪いのか」
遥は頷いた。
「それだけでもいい」
相談者が立ち上がる。
「……ありがとう」
「うん」
扉の前で、相談者が振り返った。
「ごめん、長居して」
遥は一瞬だけ止まった。
それから、少しだけ笑った。
「それは謝らなくていい」
相談者も笑った。
「……分かった」
扉が閉まる。
一人になった遥は、机に残った文字を見る。
自分が悪いのか。
そんなことを考える必要もないくらい、答えを決められてしまう日がある。
それでも誰かには、本当に自分が悪いのか考えていい、と言える。
遥は机の文字を見つめたまま、消しゴムを手に取った。
コメント
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## 感想 このエピソード、すごく刺さったわ。 すぐ謝っちゃう相談者と、遥の距離感が絶妙だった。「謝ったあとに自分まで悪かったことにしなくていい」って言葉、めっちゃ響いた。遥自身も同じことで悩んでる感じが台詞の節々に出てて、だからこそ説教臭くなくて、同じ目線で話してるのが良かった。 「次に謝りそうになった時、一回だけ考えてみます」って相談者が言ったところ、泣きそうになった。無理に変われって強要しない遥のスタンス、好きだわ。最後の消しゴムのシーンも含めて、優しさがじわっとくる話だった。 ruruhaさんの描く心理描写、毎回解像度高くて好きです🔥