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第十二章 ラディスへの帰還
第六話 青空の下の家 後編
ダイチに案内され4人は屋敷の二階へ上がっていく。
長い廊下の突き当たり。
「ここや!」
ダイチが勢いよく扉を開けた。
「俺の部屋!」
シュンタが真っ先に中を覗き込む。
「おぉ〜……」
思わず感嘆の声が漏れた。
広い部屋だった。
大きな窓。
綺麗に整えられた机。
壁に掛けられた剣。
確かに貴族の子息の部屋らしい広さだった。
けれど
「……なんか貴族っぽくないな」
ジュウタロウがぽつりと呟く。
「なんやそれ!」
ダイチがすぐに抗議する。
確かに立派な部屋ではある。
だが豪華絢爛というより、幼い頃から集め続けたものがそのまま残っている、どこかダイチらしい部屋だった。
棚には様々な物が並んでいる。
鹿の角。
綺麗な羽根。
木の実。
小瓶に入った砂。
そして大量の石。
「うわ、何これ!」
シュンタが棚を覗き込む。
「森で拾った!」
ダイチが自慢げに言う。
「いや、雑貨屋みたいやな」
さらにシュンタが骨のような物を持ち上げた。
「これ何!?」
「多分なんかの獣の骨」
「そんなもん部屋置いとくなや!」
みんなが笑う。
その時
「……これは」
ジュウタロウが静かに石棚の前へ立った。
指先でゴツゴツとした透明な鉱石を持ち上げる。
「質の良い水晶だな」
「おっ、ジュウタロウ食い付いた」
ダイチがニヤニヤする。
「これは北側山脈で採れる鉱石に近い」
「え、分かるん!?」
「……だいたいの鉱石はな」
半ば呆れたような顔のシュンタ。
「石で盛り上がれるんや……」
「ダイチ、小さい頃から綺麗な石とか拾うの好きだったよね」
ジントが懐かしそうに笑った。
「森行く度ポケットに色々拾ったもの入れてさ」
「ロマンやん!」
「洗濯の時におばさん困る、って言ってたっけ」
「うっ」
ダイチが言葉に詰まる。
ハヤトが小さく吹き出した。
しばらく棚を見ていると
「そうや!」
ダイチが突然窓を開けた。
涼しい風が部屋へ吹き込む。
「ここからよう抜け出してん」
そう言って笑いながら振り返る。
3人が窓から顔を出した。
そして沈黙する。
普通に高い。
二階以上の高さがある。
「……高くないか?」
ハヤトが真顔で言う。
「子供が飛び降りる高さではないな」
ジュウタロウも冷静に引いていた。
だがダイチは不思議そうな顔をする。
「え? 壁とか柱伝って普通に降りれんで?」
「無理やろ!!」
シュンタが即座に突っ込む。
ジントが苦笑する。
「ダイチ、子供の頃から身体能力だけは異常に高かったよね」
「“だけ”!?」
「実際そうだったじゃん」
「ひどっ!」
みんながまた笑う。
さらに部屋を見回していたシュンタが、机の端へ目を止めた。
「あれ、これ剣傷?」
机には細かな切り傷が無数についている。
「あー……」
ダイチが目を逸らした。
「父上に部屋で剣振るなって言われとったのに、素振りしてた跡」
「子供やなぁ……」
シュンタが呆れたように笑う。
するとジントが棚の奥から古い紙束を見つけた。
「あ、これまだ残ってたんだ」
広げる。
そこには子供らしい雑な地図。
森の絵。
意味不明な目印。
そして大きく書かれた文字。
『ひみつきち』
「うわ懐かし!!」
ダイチが目を輝かせる。
「これオレらで描いた地図や!」
「字、ダイチだね」
「ジント絵下手やったよな!」
「ダイチも変わんないじゃん」
笑い合う二人。
ハヤト達はそんな様子を静かに見つめていた。
旅の中では見えなかった。
二人がまだ何も知らず、ただ笑って過ごしていた頃の時間。
ここには確かに、ジントとダイチが積み重ねてきた日々が残っていた。
◇
夕食の時間になる頃。
5人は広い食堂へ案内された。
長いテーブルの上には色とりどりの料理が並べられている。
香草を使った肉料理。
焼き立てのパン。
具沢山のスープ。
西の国風の魚料理。
そして色鮮やかな果実のタルト。
「うわぁ……!」
シュンタが思わず声を上げた。
「めっちゃ豪華やん……!」
「久々の実家の料理や〜!!」
ダイチも嬉しそうに席へ着く。
そんな様子にレイラが柔らかく笑った。
「ダイチの好きなものばかり作ってもらったんよ」
「やったぁ!」
完全に子供の頃と変わらない反応だった。
「ダイチ兄ちゃん、絶対そう言うと思った」
マリンがくすくす笑う。
「いただきます!」
食事が始まる。
ダイチは早速料理を頬張った。
「うっま……!」
「食べるの相変わらず早いな」
ジュウタロウが呆れたように言う。
「育ち盛りやから!」
「俺も! 兄ちゃんみたいに大きくなる!」
シアンが負けじと料理を口へ運ぶ。
「こらこら、急いで食べると喉詰まるわよ」
レイラにたしなめられ、みんなが笑う。
一方でハヤト達も料理へ感心していた。
「これは美味いな」
「味付けが少し帝国と違う」
ハヤトが興味深そうに魚料理を見る。
レイラが嬉しそうに答えた。
「西の国の伝統料理なんです」
「なるほど」
シュンタは完全に夢中だった。
「これも美味い! あ、こっちも!」
「シュンタ君、いっぱい食べてね」
アズールが微笑む。
「はい!!」
すっかり馴染んでいる。
その様子を見ながらジントも自然と頬を緩めていた。
久しぶりの顔ぶれ。
懐かしい場所。
そして変わらない温かな空気。
そんな賑やかな食卓の中。
コバルトがふっと懐かしそうに笑った。
「しかし……ダイチがこんな風に旅をするとはな」
「本当にねぇ」
アズールも頷く。
「昔から落ち着きがなかったもの」
「ほんまやで」
レイラが困ったように笑う。
「勉強の時間になると、すーぐ森に遊びに行ってもうて」
「えっ」
シュンタが吹き出す。
「ホンマに行っとったんや」
「毎日のように抜け出してたわよ」
アズールが即答する。
「家庭教師の先生、いつも困ってたんだから」
「だって天気ええ日に勉強とかもったいないやん!」
料理を頬張りながら真顔で言う。
「ダイチらしい理屈だな」
ジュウタロウが即座に返した。
笑い声が広がる。
コバルトも苦笑しながら頷いた。
「気付いたら部屋からいなくなっているんだ」
「逆に、ちゃんと机に向かっている日の方が心配だったくらいだ」
「ひどない!?」
また笑い声が響く。
やがてレイラがふと思い出したように口を開いた。
「そういえば……」
優しい視線がジントへ向く。
「ジント君を初めて連れてきた日も大変だったわねぇ」
「……あー」
ダイチが気まずそうに目を逸らす。
「え、何何?」
シュンタがすぐに食い付く。
アズールが楽しそうに笑った。
「ダイチがね」
「“友達できた!”って大騒ぎしながら帰ってきたのよ」
「本当に嬉しそうだったな」
コバルトも懐かしそうに目を細める。
ジントは少し照れたように笑った。
「ダイチ、一人でずっと喋ってたよね」
「そら嬉しかったんやもん!」
「俺、ほとんど喋れてなかったのに」
「ジント最初めっちゃ警戒しとったからな」
ダイチが笑う。
「でも毎日森行ってたら、少しずつ話してくれるようになって」
ジントも静かに目を細めた。
「……気付いたら、こうなってた」
「運命やな!」
「大袈裟だよ」
そう言いながらもその声はどこか嬉しそうだった。
その時シアンが目を輝かせる。
「ねえ!ダイチ兄ちゃんがケンカした話って本当!?」
「あっ……」
ダイチが完全に視線を逸らした。
アズールが吹き出す。
「学校でね」
「ジント君のことを悪く言った子がいた時」
「え?」
シュンタが驚く。
コバルトが静かに頷いた。
「ダイチは、その子に向かっていったんだ」
「いや、だって……」
ダイチが少し眉を寄せる。
「黒髪で気味悪いとか、“化け物”とか……」
一瞬食卓が静かになる。
ジントは目を伏せた。
昔はそういう言葉を向けられることが当たり前だった。
「ダイチ、机の上乗り越えて突っ込んでったんだっけ」
ジントが小さく笑う。
「そらキレるやろ!」
「その後、先生にめちゃくちゃ怒られてたけどね」
アズールが追撃する。
「うっ……」
ダイチが黙り込む。
するとコバルトが穏やかに口を開いた。
「だが私は、あの時のお前のしたことを責める気はない」
ダイチが顔を上げる。
「友を傷付けられて怒れることは、お前の良いところだ」
静かな声。
「……父上」
ダイチが少し照れ臭そうに笑う。
その横で、ジントはそっと視線を落とした。
胸の奥がじんわり温かかった。
あの日。
自分を庇って怒ってくれた少年は、今も変わらず隣にいてくれる。
その事実がどうしようもなく嬉しかった。
コメント
3件
めっちゃ温かい、、、! 戦闘シーンの激しさと今回のような温かい話の使い分けが出来ていてめっちゃ尊敬です!!続きがとても気になります♪
うわあ……すごく温かい話だったね🥀 ダイチの部屋、子供の頃集めた石や骨、地図、全部がそのまま残ってるの、本当に愛されて育ったんだなって伝わってきたよ。 それに、家族みんなで囲む食卓のシーン、自然と笑顔になっちゃった。 ジントが初めて来た日の話、学校で庇ってくれた話……「変わらず隣にいてくれる」って言葉、すごくじんわりきた。 こういう“守られてきた時間”が、ダイチの優しさの根っこなんだなあ。 comiさんの描く日常の温かさ、本当に好きです🌙