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第十二章 ラディスへの帰還
第七話 青を照らす月
夕食も終わり、賑やかだった食堂には少しずつ穏やかな静けさが戻り始めていた。
笑い声の余韻。
温かな料理の香り。
久しぶりに帰ってきた家族の時間。
その空気を惜しむように眺めていたダイチが、ふと思い出したように口を開いた。
「そうや!」
「みんな、今日は泊まっていくやろ?」
その言葉にハヤト達3人が顔を見合わせる。
そしてハヤトが首を横に振った。
「いや」
穏やかに微笑む。
「家族水入らずの時間も必要だろう?
俺達は宿を取るよ」
ジュウタロウも静かに頷く。
「その方が気を遣わずに済むだろうしな」
「ラディスの宿も気になるし!」
シュンタは相変わらず楽しそうだった。
「……そっか」
少しだけ残念そうな顔をしたあと、ダイチはすぐに笑った。
「まぁ、また明日会うしな!」
その横でジントも静かに口を開く。
「オレも今日は、ばあちゃんのところに帰るね」
その瞬間、ほんの一瞬だけダイチの表情が止まった。
けれどすぐにいつもの笑顔に戻る。
「せやな、ばあちゃんも待っとるやろし」
その声は優しかった。
それから4人は、改めてソルト家の面々へ礼を述べた。
「今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ、来てくれて嬉しかったわ」
レイラは穏やかに微笑んだ。
アズールは胸の前で手を組み、祈るように言う。
「必ず……必ず!!またいらして下さいね!!」
シアンとマリンも名残惜しそうに手を振る。
「また遊び来てね!」
「次はもっと旅のお話聞きたいです!」
「もちろんええよ!」
シュンタが元気よく返す。
やがて5人は玄関の外へ出た。
夜風がひんやりと頬を撫でる。
使用人達が馬を連れてきてくれた。
先に馬へ跨ったハヤトがジントへ手を差し伸べる。
「ジント、薬屋まで送るよ」
その時
「いや!」
ダイチが勢いよく割って入った。
「俺がジント送る!」
そのまま慌てたようにジントの腕を引く。
「えっ」
少し戸惑うジント。
ハヤトは一瞬目を丸くしたあと、困ったように笑った。
「……ダイチには敵わないな」
その言葉にジュウタロウが小さく笑った。
#恋愛
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成瀬りん
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#怪異
215
シュンタは完全に面白そうな顔をしている。
「ほら、行くで」
連れて来られた馬に素早く跨り、ダイチが馬上から手を差し出す。
ジントは少しだけ照れたように笑い、その手を取った。
引き上げられるように後ろへ跨がる。
そして自然にダイチの腰へ腕を回した。
旅の間、もう何度も繰り返してきたこと。
なのに、なぜか今日は違った。
背中から伝わる温度。
近すぎる鼓動。
いつも知っていたはずのものが、急に特別なものへ変わってしまったようだった。
ジントがその背中にそっと頬を預けると、ダイチの肩がびくりと震えた。
耳がみるみる赤くなる。
それを見た瞬間、ジントの胸までじわっと熱くなった。
馬がゆっくり歩き出す。
夜のラディスは昼間とは違う静けさを纏っていた。
月明かりに照らされた石畳。
街道沿いに並ぶ温かな灯り。
窓越しに見える家族の食卓。
誰かが帰る場所。
誰かを待つ場所。
そんな当たり前の景色が、今のジントには眩しく見える。
しばらく二人は無言だった。
馬の蹄の音だけが静かな夜へ響いていく。
けれどその沈黙は不思議と苦しくなかった。
やがて、ジントが小さく呟いた。
「……ねえ、ダイチ」
「ん?」
前を向いたままダイチが答える。
そして、耳元へ落ちるような小さな声。
「……ありがと」
その囁きに、ダイチの呼吸が僅かに止まる。
「………ん」
返せたのは、それだけだった。
だが触れたところから伝わる互いの体温が、さらに熱を増した気がした。
やがてハヤト達と宿屋の前で別れる。
「また明日なー!」
3人が手を振った。
そして間もなく二人は薬屋へ辿り着く。
馬を降りる。
静かな夜。
扉の前で、何となくそのまま向かい合った。
ほんの一瞬、目が合う。
だがすぐに互いに視線を逸らす。
言葉が見つからない。
何か言いたいのに、何を言えばいいのか分からない。
冷えた秋風が、木々を揺らしながら二人の間を通り抜けていく。
その時
ジントはゆっくり一歩近付いた。
そして突然、ぎゅっと、
ダイチを抱き締めた。
「………っ」
ダイチの身体が固まった。
再び強い風が吹く。
黒髪がふわりと靡き、ダイチの頬へ触れた。
まるで時間が止まったようだった。
ジントは何も言わない。
ただ、確かめるように、失わないように、しばらくその温もりを感じていた。
そして、はっとしたように離れる。
「……じゃあ」
顔を上げられない。
「ダイチ、また明日ね……!」
早口になった声。
そのまま扉へ向かう。
「おやすみ」
そう言って、逃げるように中へ入った。
――バタン。
風に吹かれた落ち葉が足元に舞い上がる。
ダイチはその場に立ち尽くしていた。
最後に見えた、赤く染まったジントの顔。
震えるように揺れた黒い瞳。
「…………」
しばらく動けなかった。
やがて
「……はぁ〜……」
力が抜けたように息を吐く。
ふらふらと馬へ跨がり、屋敷への道をゆっくり進んでいく。
月明かりの下。
通い慣れた何でもないはずの道。
なのに、胸の奥はずっと騒がしいままだった。
ジントが隣にいること。
名前を呼ばれること。
笑ってくれること。
全部が、もう昔と同じ意味ではなくなっている。
ダイチは空を見上げた。
そこには、優しく微笑むような静かな月。
その月明かりが照らす青い瞳は、
どこか苦しげに、切なく揺れていた。
この回と次回、二人の心が大きく揺れ動く、作者の思い入れが非常に強い回であります♡
読者様の心を揺さぶった分だけ♡を頂けたら嬉しいです(*˘︶˘*).。*♡
コメント
7件
いやぁ2人とも可愛すぎてどうしましょう…ジントがダイチにハグするシーンは見てるこっちまで顔が赤くなりそうです🫣💕
流石に心臓止まるかと思いました… 2人が可愛すぎて、ひぃって声上げちゃいましたもん…天才ですか???
いいねボタンが足りないのはどうしたらいいですかー😭😭 いいぞもっといけ!!って後押ししたいです♡