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昼休みのチャイムが鳴り、教室に残った遥は、いつものように机に突っ伏していた。周りのざわめきや笑い声は、いつも通り自分を通り過ぎていく。そんな中、クラスの一人、椿が近づいてきた。


「おい、今日のお弁当、余ってるんだろ?ちょっと分けてくれよ」


遥は驚いた。普段はからかい半分でしか声をかけてこない椿が、こんな穏やかな声で話しかけてくるなんて——。


「う、うん……いいけど……」


答える自分の声が、少し震えているのに気づく。心のどこかで、久しぶりに誰かに認められた気がした。


その日、椿は何度も声をかけてくれた。

教科書を落としたときにはさっと拾ってくれる。

忘れ物をしたら「これ、持ってきてやったぞ」と笑う。

放課後には、「ちょっと一緒に帰ろうぜ」と言われ、遥は戸惑いながらも頷いた。


「……あの、ほんとに、いいの?」


「お前、そんな顔すんなよ。気にすんなって」


言葉は軽いのに、温かさが心に染みる。遥は、少しだけ肩の力を抜いた。誰かが自分のことを気にかけてくれる、そんな感覚が、幼い頃からの孤独を薄く揺らす。


けれど、胸の奥の声もあった。


――でも、また裏切られるんじゃないか。

――きっと、騙されてるだけだ。


それでも、目の前の優しさに、少しだけ心を預けてしまう自分を止められない。椿が笑うたびに、心の奥で緊張と期待が絡み合う。


「……ありがとう、椿」


小さな声に、遥の素直な感情がこぼれる。


昼休みはあっという間に過ぎ、クラスメイトたちが教室に戻っていく。椿も「じゃあな」と言って去っていった。遥は机に戻り、余韻をかみしめる。誰かに認められるという感覚。ほんの少しだけ、世界が柔らかく見えた瞬間だった。





昼下がり、椿やクラスの数人に誘われて公園へ行くことになった。


「おい、早く来いよ」


「待って、ほら、急げって」


冗談混じりの声に、遥は頷いて走る。心臓が少し早くなる。誘われたことは嬉しい。でも、いつも通り、ちゃんとできなかったらどうしよう――そんな不安も消えない。


公園に着くと、すぐに命令が飛ぶ。


「こっちに座れよ」


「もっと手早くやれ、ほら」


遥は立ち止まり、少し戸惑う。だが、「自分ができないのが悪いんだ」と思い直して、手を動かす。必死に、指示通りに体を動かす。


「……こうかな」


声は小さい。手が震む。


「おい、違うだろ、もっときちんとやれ」


「うわ、顔まっかだな」


周りが笑う。遥は心の中で「またやらかした……俺、全然ダメだ」と繰り返す。


次々に細かい指示が出される。荷物を運ばされたり、段差に座らされたり。何度も動きを直されるたび、遥は「俺が悪いんだ」と思うだけだ。誰も助けてくれない。笑われる自分、間違える自分、自分ができないことの連鎖。顔は熱く、手は震え、心臓は早鐘を打つ。


「そこの角度だ、もっと変に見せろ」


「うわ、動きぎこちねえ」


言葉は冗談混じりだが、遥の心には鋭く刺さる。


「俺、全然だめだ……ちゃんとできない……」


誰かを責める気はない。自分が全部悪いと思うだけだ。必死に手順を守り、立ち位置を変え、顔を引きつらせながらも応え続ける。


通行人がちらっと見ても、仲間たちは止めない。笑われるのはいつものことだ。遥は羞恥で息が詰まりそうになるが、それ以上に「ちゃんとできなかった」と自己否定を強める。


「もっと、俺、やらなきゃ……」


声にならない声を心で繰り返す。体は疲れて震えるが、必死で従う。必死すぎて、逆に笑いを増幅させていることには気づかない。


段差に座らされて荷物を運ぶ、奇妙なポーズを取る、指示通りに走る――どれも失敗しないようにと考えての行動だが、周囲の笑い声が止まることはない。自分が不完全であるという自己否定のループの中、必死に体を動かすしかない。


「……やっぱり、俺、全然だめだ……」


誰も褒めてくれない。必死で応えても、周りの笑いに消される自分。信じて頑張るほど、心は痛めつけられ、羞恥と不甲斐なさで押し潰されそうになる。


無名の灯 番外編2

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