凪子は良輔がぐっすり眠るベッドを抜け出し、バスルームへ向かった。
シャワーを浴びながら、先ほど良輔の唇が触れた場所を丹念に洗う。
まるで穢れを落とすかのように、いつもよりも念入りに洗った。
そして着替えを済ませると、夕食の支度を始める。
料理をしながらまたブログの一文が脳裏を過る。
【料理の手抜きは禁物です。常に相手の胃袋は掴んでおきましょう。日頃から家事をちゃんとしていれば、離婚の際あなたが不
利になる事はありません。また、美味しい料理で夫を手懐けておけば、夫は必ず家に帰ってきます。
愛人の手作り料理が新鮮に感じるのはせいぜい付き合い始めた最初の頃だけ。あなたが結婚以来作り続けた愛情のこもった料
理は、夫の舌と記憶にしっかりと刻まれています。だからあなたの料理に叶う料理はありません。
だから例え将来別れようと思っていても、離婚するまでは美味しい料理を作り続け夫が愛人の元へ通う頻度を少しずつ減らす様
に仕向けましょう】
(二人をギャフンと言わせてから離婚するのも、結構大変なのね…)
凪子はそう思いながら、良輔が好きなイタリアンメニューに取り掛かる。
しばらくしてキッチンに美味しそうな香りが漂い始めると、漸く良輔が寝室から出て来た。
いつもはすぐソファーへ向かう良輔は、この日はキッチンへ来て後ろからギュッと凪子を抱き締める。
そして凪子の首筋にチュッとキスをすると言った。
「おっ、イタリアンか! 美味しそうだな…」
「今日は、あなたの好きなフィットチーネとミラノ風カツレツにしたわ」
凪子は、良輔が好きなトマトとモッツアレッラチーズのパスタと、
トマトを刻んでオリーブオイルと和えたソースを上に載せたポークカツレツを作っていた。
「いいねぇ…明日も休みだし、ワインでも開けるか!」
良輔はそう言うと、ご機嫌な様子でワインを取り出しテーブルへ持って行く。
凪子は手早くサラダも作った後、ワインのおつまみにチーズを切る。
チーズにはクラッカーを添えた。
「家でイタリアンなんて久しぶりだな。なんか付き合っていた頃を思い出すよ」
そんな夫の言葉を聞き凪子は思った。
付き合っていた頃はこんな夕食を週末ごとに楽しんでいた。
凪子は良輔を喜ばせようと、毎週末良輔の家で手料理を作ってあげていた。
しかし結婚してからは一緒に夕食を食べる事も減った。
平日の半分以上は別々の夕食だし、休日もどちらかに予定が入っていれば別々だ。
(良輔を浮気に走らせてしまったのは、私にも責任があるのかな…)
凪子はふとそう思い後悔の念に苛まれる。
そしてこんな事も思う。
(このまま気付かないふりをして夫を取り戻し、何事もなかったようにまた夫婦関係を再構築をする事は出来ないだろうか?)
しかしすぐに結論は出た。
答えはノーだった。
一度失った信頼を取り戻すのは難しい。
もし仮に今回良輔が不倫相手と別れたとしても、
良輔の帰りが遅かったり良輔が休日に一人で出かける度に、凪子はきっと疑ってしまうだろう。
妻が常にそんな目で見ていたら、良輔も息苦しくてまた浮気をするかもしれない。
そんなビクビクした生活は懲り懲りだ。
やはり一度狂ってしまった歯車はもう二度と元には戻らないのだ。
凪子は深いため息をつくと、自分の愚かな考えを一切頭の中から消し去った。
コメント
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凪子さんは本当に聡明な賢い女性👩🍼blogを参考にしてるけど凄く努力をして離婚前提でも浮気相手から良輔を引き離そうとするのが凄い‼️それに自分の中で迷いが出ても最終的に信頼できなくなった相手に再度はないって分かってるところが流石👍