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それから三十分ぐらいかけて――。
うちは姫宮さんのアルファードに乗って、県境の山中深くに建つ大きな廃墟に辿り着いていた。
一見するとその施設は、廃棄されたゴミ処理場のようだった。
だけど、よく見れば内部から明かりが漏れていたし、ところどころに青い制服を着た人達が立っていた。
青龍機関「警備員」の人達だ。
うちも何度かお世話になっているけれど、一か所にこんな大勢いるのを見たのは初めてかも知れない。
「――はい。これがキミカちゃんのIDカードです。ここにいる間は常に携帯してくださいね」
「ええっ? こ、こんなんいつの間に作ったんですか?」
思わず声が震えた。
姫宮さんに自分の顔写真の入ったカードを手渡されて。
「――じゃあ、行きましょうか。……内部は複雑な構造になっていて危険物もあるから、絶対、私から離れたりなかにある物に触れたりしないで下さいね」
返事を待たず、うちの手を取り、そのまま姫宮さんは廃墟の入り口へと向かって歩き始める。
施設の中はヒンヤリと冷たく湿った空気で満ち溢れていた。
天井に等間隔に接された白い蛍光灯の光が照らしつける廊下は狭く曲がりくねっており、まるで複雑に入り組んだ迷路のようだった。
そこを姫川さんに手を引かれながら歩く。
厳重な警備が置かれているらしく、至る所に監視カメラが設置されていた。
「ここは怪異の封印及び終結方法の研究に特化した白虎機関傘下の特殊施設≪忌み地≫です。通称、AG。Accursed Groundの略ですね」
何も質問していないのに解説を始めてくれる姫宮さんは、やっぱり嬉しそうだった。
「同じ機能を持った施設は日本全国にあって、ええっとここは――」
そこまで言いかけて姫宮さんは急に困った表情になる。
しばらく、黙り込み、天井を見上げていたが、
「そ、そうだ。37番だ。ここはAG-37です。……私、昔から数字や暗号を覚えるの子供の頃から苦手なんですよねぇ」
そう言って照れ臭そうに姫宮さんは肩をすくめて見せる。
数字や暗号が苦手って……この人、一応秘密組織の人やろ?
そんなんで大丈夫なん?
いや、そんなことよりも――
「えっと、姫宮さん……? 今、うちには怪異の封印及び終結方法の研究に特化した施設、って聞こえたんやけど……」
「はい、そうです。ここには日本全国で捕獲された怪異や呪物の類が山ほど収容されてます」
聞き違えであって欲しいと言う、うちの希望を姫宮さんがあっさりと打ち砕く。
「あ、怖がらなくても大丈夫ですよ? 確かに中には危険な怪異もいますけど――、しっかりと練られたプロトコルに従って厳重に封印管理されていますから。余程のことがない限り事故なんて起きたりしませんから」
#異能
#伝奇
姫宮さんには申し訳ないけれど、ちっとも大丈夫だと思えない。
そもそも、今回、うちらを散々な目に遭わせた笑ひ岩って白虎機関の収容施設からにげたんやなかったっけ?
そんなことを考えている間に――。
うちらは長い廊下の奥へとたどり着く。そこはエレベーターホールだった。姫宮さんがかごボタンを操作して、エレベーターを呼び、その中に乗り込む。
唸るような振動音を立てながら――、エレベーターは地下深くへと降ってゆく。
正確なところは分からないけれど、下降速度や最下部に到着するまでの時間を体感的に考えると、童ノ宮の神域である「御穴」と同じか、それ以上の深さがあるように思えた。
つまり、ここは地下八百メートル異常もある縦穴の底ということ。
やがて、重々しい音を立ててドアが開きうちを出迎えたのは、これまで見たことも感じたこともない膨大な質量をもった闇の空間。
自然と足がすくむ。巨大な肉食獣が棲む洞穴の入り口に立っているかのような気持ちだった。
次の瞬間、闇の向こうからいくつもの声が聞こえてくる。
すすり泣く声や叫ぶ声。怒鳴り、何かを罵る声。
それらの声は明らかに人のものじゃない。この世のものですらない。
地獄の底から染み出した霊毒そのものだ。
「――足を進めて下さい、キミカちゃん」
寄り添うようにうちのかたわらに姫川さんが立って言う。
「私やキミカちゃんみたいな側の人間は、怖くても、危険でも、前に進み続けるしかないんです。――ゼナ博士はこの先にいらっしゃいます」
姫宮さんに抱きしめられるようにして、うちは闇の中、一歩足を踏み出していた。