テラーノベル
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海は、空と同じ色をしていた。真昼の光が水面に降り注ぎ、きらきらと反射して目を細める。
砂浜ではクラスメイトがビーチボールを投げ合い、遠くから笑い声が響いてきた。
私は少し離れた波打ち際を歩いていた。
裸足の足先を、寄せては返す波がくすぐる。
潮の香りと、濡れた砂のひんやりした感触が心地いい。
「こんなとこにいたのか」
振り向くと、翔太が濡れた髪を手でかきあげながら近づいてきた。
水滴が陽の光を受けて小さく光っている。
「泳がないの?」
「ちょっと休憩。……海、見てるの好きだから」
「わかる」
二人並んで、波の方を向く。
会話はそれきり途切れたけれど、不思議と居心地は悪くなかった。
ただ、波の音と心臓の音だけが静かに混ざっていく。
「……来年も、みんなで来たいな」
「うん。来ようよ」
「約束な」
差し出された翔太の小指が、陽の光を受けてあたたかく見えた。
指切りをした瞬間、心の奥に小さな灯りがともるような気がした。
遠くで誰かが名前を呼ぶ声がして、私たちは手を離した。
でも、波の音の中に、その約束だけはちゃんと残っていた。
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