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夜空を見上げると、色とりどりの光が大きく咲いては、音を残して散っていく。境内から伸びる道は屋台の灯りで照らされ、人の波が途切れることなく続いていた。
「ほら、もうすぐ上がるよ」
翔太がそう言って、少し先の空いた場所を指さす。
私は慣れない浴衣の裾を気にしながら、その後ろをついていった。
「うわ、本当に人多いね」
「祭りだからね」
そう言って振り返った翔太の笑顔が、提灯の灯りに照らされてやわらかく見えた。
胸が少し熱くなって、視線をそらす。
「……あ、浴衣似合ってるじゃん」
「えっ? あ、あー……ありがと。慣れないからちょっと歩きにくいけど」
会話をしていると、頭のすぐ上で大きな音が響き、夜空に大輪の花が開いた。
金と赤の光が一瞬で辺りを染め、翔太の横顔にも鮮やかな色を落とす。
「きれいだね」
「うん……」
胸の奥に残った熱は、花火のせいか、それとも隣にいるせいか。
「りんご飴買いたいな」
「じゃあ行こうか」
人混みの中、翔太の手が不意に私の手首をつかんだ。
驚きで心臓が跳ねる。
「あ、ごめん、人混みで離れそうだったから」
「……うん」
二人で少し歩くと、また空に花が咲いた。
その光を見上げながら、翔太がぽつりと言う。
「じゃあ、来年も一緒に見よう」
「……うん、約束」
夏の夜風が浴衣の袖を揺らし、遠くで花火がもう一度、大きく開いた。