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#伝奇
#モキュメンタリーホラー
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やがて、うちらを乗せた車は山の中腹へと差し掛かり、一面雑草に覆われた駐車場と思しきスペースへと進入していった。片隅に『立ち入り禁止』の立て札があったが、それは無視する。
「さて、と……」
サイドブレーキを引き上げ、気を取り直したようにリョウが言った。
「あいつがキミカに見せたっていうのはあの建物のことか?」
自然と眉間に皺がよるのを覚えながら、うちはリョウの指さす方を見る。
夢の中で見た通り、そこに立っていたのは中世ヨーロッパの城を思わせる大きな建物。
だけど、こうやって改めて現実の景色として見てみると何だか安っぽくて、まるでハリボテのような印象を受ける。
壁面もあちこちが剥がれ落ちて地面で砕け散っており、長いツタがビッシリと絡み付いている。
湿気のせいか、建物全体が黒ずんでいて廃墟であることは一目瞭然だった。
「うん。ほんの一瞬だったけど間違いない、と思う……」
「そうか。ま、この辺に城の形をした建物なんて他にはないし間違いないだろ」
小さく頷き、運転席から降りるリョウ。
そして、そのまま建物に向かって歩いてゆく。
慌ててうちもその後に続いた。
建物の入り口は赤錆びた鎖で何重にもまかれ、錠前が取り付けられていたがリョウはそれをつかみ、軽く引っ張るだけで引き千切った。
あい変らず馬鹿力やなぁ、と思いつつもうちはリュックサックの中から懐中電灯を取り出し、電源スイッチを押す。
暗闇の中を光線がほとばしり、光の輪の中に内部の様子が浮かび上がらせていた。
朽ち果てかけたソファーや柱時計、真っ二つになったガラス製のテーブル、派手な模様のじゅうたん……。
長い時間の間、この黴臭い闇の中に取り残されて来たであろう調度品たちはそのどれもが悪趣味で、何だか悪夢じみているように思えた。
部屋の奥には仕切りに囲まれた受け付けのようなスペース。
不届きな輩が忍び込み、荒らしたのかもしれない。古いレジスターが台の上で横倒しになっていた。
「なぁ、リョウ。ここって……?」
「ここはキャッスルランドと言って見ての通り、廃墟になったラブ……いや、ホテルだ」
うちかてラブホぐらい知っとるし、どういうことをする場所かぐらいは知っとるわ。
喉元まで出かけた、そんな言葉をうちは辛うじて飲み込む。
リョウはうちのことを初めて出会った七歳の頃と同じだと思っている節がある。
そりゃ、うちの身長は百四十センチ未満でクラスでも一番チビだけど、これでももう十三歳で中学生だ。露骨に子ども扱いされるのは不本意、と言う気持ちになってしまう。
「――おっと、階段発見だ」
懐中電灯から伸びる光を振り回していたリョウの声が低く響く。
非常口とプレートの貼られた重たそうな鉄製の扉を片手で押さえ、その向こうを覗き込みながらリョウが言った。
「ここから上の階に行けそうだな。……床板が腐っていたりしなきゃいいんだが」
こうして――、うちらはリョウいわく、ただのホテルの二階から順番に探索を開始した。
とは言っても、これと言って変わったものは何も見つからなかった。
ホテルは全部で四階建て。客室の数は全部で九部屋と案外、規模が大きい。
とは言え、どのフロアも同じような感じで各寝室に残されているのは枠組みだけとなった大きなベッドぐらいのものだったし、天井のシャンデリアを模したと思しき照明器具は全て砕かれ、蜘蛛の巣だらけだった。
当然ながらシャワールームの水は止められていて、タイルの床はひび割れ得体の知れない虫の巣窟となっていた。
廊下の隅に置かれた避妊具の自動販売機の受け取り口にも残留物が残っていたようだが、そんなものキモチ悪だけだし、いちいち確認するまでもない。
「……このホテルは平成の半ば頃、廃業したらしい」
何もないガランとした小部屋――タオルや衣類などを保管するためのリネン室だろう、多分――を覗き込みながらリョウが言った。不自然なくらい声が低かった。
「廃業? なんで?」
「オーナーがギャンブルにはまり、多額の借金をかかえて失踪、だそうだ。以来、ここでは幽霊の目撃談が後を絶えないらしい」
「……それって全部、ネットで拾った情報やんな?」
「ああ。眉唾だな。だけど、輩連中がナンパした女を無理矢理、連れ込み乱暴したって事件は実際にあったらしい」
……聞かなきゃよかった。
もし、その話が本当だとすればこんな暗くて汚い場所で、語るのもはばかられるような酷い目に遭わされた女の人がいると言うことだ。
ある意味、下手な怪談よりもずっと怖い。
いや、怖いだけじゃない。すごい嫌悪感を覚える。
「……もう、ここはええんちゃう?」
自分の中の暗い感情に飲み込まれそうになって、敢えて明るい声でうちは言った。
「何もないモンはいくら見たって何もないって。次行こ、次」
「……そうだな」
短く答え、リョウがリネン室のドアを閉める。
バタン、と言う重い音が闇に満たされた廃墟の中に響き渡った。