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第十二章 ラディスへの帰還
第十一話 動き出す者たち
ダイチがまず向かったのは、ハヤト達が泊まる宿屋だった。
ラディスでも比較的大きな宿屋。
表には旅人や商人が行き交い、裏手には広めの厩舎まで備わっている。
受付で部屋を聞き、二階へ上がる。
そして一番奥の扉をノックした。
「俺やけど〜」
するとすぐに扉が開いた。
「はーい」
顔を出したのはシュンタだった。
だがダイチを見るなり、一瞬だけぴたりと動きが止まる。
「あっ……」
何かを察したような顔。
けれど次の瞬間には、いつもの明るい笑顔へ戻った。
「ダイちゃんおはよ!」
「昨日はありがとな〜!」
「まぁまぁ、入って入って!」
妙に機嫌がいい。
その反応にダイチは少し警戒しながら部屋へ入った。
中ではハヤトとジュウタロウがそれぞれくつろいでいた。
そして二人は、ダイチを見るなり一瞬だけ視線を交わす。
「あー……」
ハヤトが小さく声を漏らした。
「……」
ジュウタロウは無言。
その視線がダイチの顔へ向く。
「……寝不足か?」
「っ!?」
ダイチが固まる。
「な、なんで分かんねん!」
思わず声が裏返った。
ハヤトが苦笑する。
「いや……まあ」
「分かりやすすぎるからな」
ジュウタロウが淡々と言う。
「顔に出すぎだ」
「……」
ダイチは言葉を失った。
そしてシュンタが満面の笑みでダイチの肩にポンと手を乗せる。
「何でも話聞くで?」
「はぁぁ〜〜〜っ!!」
ダイチはその手を払い、顔をしかめる。
「姉ちゃんみたいな反応やめぇや!!」
その瞬間。
三人とももう我慢できなかった。
「っはははは!」
「ダイチ……!」
「いやほんま分かりやすすぎやって!」
キョトンとするダイチ。
だが少しずつ腹が立ってくる。
「……もうええわ!」
ぷいっとそっぽを向く。
「今日は別行動な!」
そのまま部屋を出ようとした。
「ああ、ごめんごめん」
ハヤトが慌てて声を掛ける。
「実は俺達も今日は、それぞれ情報収集をしようかと話していたんだ」
「また夜にここへ集まろう」
「……ん」
ダイチが振り返る。
ハヤトは少し笑った。
「今からジントのところへ行くんだろ?」
「……」
一瞬、ダイチの目が泳ぐ。
「……別に」
小さく呟く。
「ちょっと出掛けるだけや……」
その瞬間後ろから
「頑張ってなー!」
シュンタの声が飛んできた。
「っ!!」
ダイチの顔が一気に赤くなる。
ジュウタロウはとうとう耐えられなくなったのか、顔を背け肩を震わせていた。
「お前まだ笑っとるん!?」
「……すまん」
全然反省していない。
「……じゃあまた後で」
ダイチは大きくため息を吐き、部屋を後にした。
扉が閉まる。
するとすぐに中から笑い声が響いた。
「なんなんほんま……」
ダイチは呆れながら宿屋を出る。
馬へ跨がる。
少しだけ考えた。
……俺、そんな顔に出てるん?
だが
「まぁ……気にしてもしゃあないか!」
そう呟いて、手綱を握る。
胸が高鳴っていた。
ーー早く、会いたい。
その気持ちを認めると、余計に落ち着かなくなる。
薬屋までの道のりが、やけに長く感じた。
◇
その頃宿屋の部屋では。
「っはははは!!」
再び笑い声が響いていた。
「なあ、さっきのダイちゃん見た!?」
シュンタが腹を抱えて笑う。
「完全に目泳いどったなぁ!」
「本当に自覚がないんだろうな……」
ジュウタロウはまだ笑いを残していた。
そんな様子を見てハヤトが少し驚いたように言う。
「にしても」
「ジュウタロウのツボに完全に入ったな」
「……昨日のアズール嬢とのやり取りまで、思い出してしまって……」
その言葉だけで、ジュウタロウの肩が再び震える。
「こりゃあかんわ」
シュンタがお手上げのように両手を上げる。
しばらく笑いが続いたあと。
ハヤトがふと、穏やかな声で呟いた。
「……でも」
「ここへ来て、ジントもダイチも本当に変わったよな」
部屋の空気が少し落ち着く。
ジュウタロウも窓の外へ視線を向けた。
「……ああ」
少し考える。
「ずっと自分を縛っていたものから、少し自由になったような感じがする」
シュンタも静かに頷く。
「そうやなぁ」
ベッドへ寝転びながら天井を見る。
「ここまで色々乗り越えてきて、故郷に戻って」
「ようやく安心できる場所に帰ってきたんやろな」
そしてふっと笑った。
「それに!」
勢いよく起き上がる。
「俺らも、こんな恋バナみたいなんするくらい仲良くなれたし!」
にかっと笑う。
「昔はさ」
「どっかの街で仲良くなっても、またすぐ別れるだけやったから」
「こうやって一緒に笑える相手がおるん、なんかええなぁって思うわ」
その言葉に、ハヤトとジュウタロウも自然と笑みを浮かべた。
旅の始まり。
帝国で再会した頃には、こんな関係になるとは思っていなかった。
今では互いの背中を預けられる仲間。
そして家族のような存在になっていた。
穏やかな沈黙が流れる。
だがハヤトが再び表情を引き締めた。
「さて、この後だが」
二人へ視線を向ける。
「俺とジュウタロウは、少し教会の動向を調べながら街の図書館で情報収集をしてくる」
「……ああ」
ジュウタロウが頷く。
昨日から教会の視線が妙に気になっていた。
白霧山。
月蝕記。
月の一族。
帝国。
何かが動き出そうとしている気がする。
「シュンタは?」
ハヤトが聞く。
「俺は商団の古い仲間がここにおるからな」
「そのつてで色々調べてみるわ」
少し真面目な表情で返す。
「頼りにしてるぞ」
「任しとき!」
そしてハヤトが立ち上がる。
「じゃあ、また夕食前にはここへ戻ろう」
それぞれ準備を始める。
ラディスの穏やかな朝。
けれどその裏側で、運命の歯車は静かに回り始めていた。
コメント
1件
第40話読み終えたわ!ダイチがジントに会いに行く前の照れっぷりが可愛すぎる(笑)。「顔に出る」って仲間に見抜かれて赤くなるところ、シュンタの「頑張ってなー!」でさらに顔真っ赤にしてるところ最高だった。ジュウタロウが肩震わせて笑ってるのもツボったみたいで、あのクールな奴がって思うと笑える。旅の始まりからここまで、みんながこんなに仲良くなると思わなかったな。ラディスの穏やかな日常の中で、運命の歯車が静かに動き始めてる感じも気になる。次も楽しみにしてる!