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瑠璃マリコ
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今泉さんは腕の力を抜いて肩に手を添えると、私を自身と向き合わせる。
「確かに、以前この関係にはお互いを守る意識が大切だと言った。でも、俺は亜紀との関係をリスクを背負うだなんて思ったことは、一度もない」
重なる視線。彼は私の瞳を真っすぐに見つめ、言葉を紡ぐ。
「亜紀が俺の存在をリスクだと思っていたとしても、それは構わない。
俺の存在が自分の生活を脅かすと思うなら、亜紀から終止符を打てばいい。
でも、俺に迷惑がかかるからと言う理由なら、納得がいかない。俺は引き止める。
迷惑かどうかは亜紀が決めることじゃない。そうだろう?」
今泉さんはそう言って柔らかな笑みを浮かべ、私の顔を覗き込む。
「でも……」
彼の優しい言葉が胸に沁み入る。
涙で崩れた顔を上げられず、べそをかく子供のように嗚咽を繰り返す。
「『でも』じゃない! そこは『はい』だ!」
わざとらしく怒ってみせる今泉さんは、私の鼻をきゅっと摘んだ。
「……はい……」
鼻を摘まれた私は、戸惑いながらも頷く。
「よしっ。それなら、今夜はここに泊まっていくか?」
今泉さんは私の両手を掬い上げ、にかっと少年のような澄んだ笑みを浮かべた。
「ええっ!? ここに泊まる……?」
ひどく驚いて目を瞬かせる。
「俺もたまに泊まって仕事してるんだ。パソコンあり、ベッドあり、シャワールームあり。窓からは素晴らしい園庭が眺められるしな。なかなか快適なホテルだぞ」
今泉さんは私の手を引き、ソファーに座るよう促した。
私が遠慮がちに腰を下ろすと、その隣に今泉さんも座った。
「そんな……泊まってもいいのかな。柳さんに迷惑がかかるんじゃ……」
「柳さんは迷惑だなんて思わないよ。亜紀がお気に入りだからな」
「今泉さんは? やっぱり帰っちゃうよね……」
声が尻すぼみになる。
本当は一緒にいてほしい。
けれど、家庭のある人にそんなことは言えない。
気まずそうに肩をすぼめた私を見て、今泉さんは目尻を下げ、ふっと口元を綻ばせた。
「俺かぁ、せっかくだから一緒に泊まるかな」
「えっ! 本当に? ……でも、帰るつもりだったんでしょ? 突然のお泊まりはまずいんじゃ……」
一瞬パッと顔を輝かせた後、遠慮がちに問う。
「んん? 亜紀は朝まで一緒にいたくないのか? 亜紀が帰れと言うなら、そうするが……」
「ええっ! 駄目、帰らないで。……お願い。今夜は朝まで一緒にいて」
そっと瞼を閉じて、今泉さんの肩にもたれ掛かる。
白いワイシャツ越しに伝わってくる彼の体温。
微かに残る煙草の香り。
このまま、時が止まってくれればいいのに――。
二人しか存在しない世界。
誰にも邪魔されることのない、閉ざされた二人の世界。
できることなら、この人の優しさにずっと包まれていたい……。
「ああ、亜紀と一緒にいる。何も心配しなくていいから」
肩に回された彼の手が、優しく私の髪を撫でる。
吸い込まれていくような、淡い安らぎ。
「ありがとう……今泉さん」
小さく囁き、彼の胸にそっと顔を埋めた。
***
広さ畳一枚ほどのシャワールームで、身を寄せ合ってシャワーを浴びる。
今泉さんは手のひらでボディーソープを泡立て、包み込むように私の体を優しく洗ってくれる。
泡を絡ませた長い指が、私の首筋から脇へ滑らかに入り込んだ。
「こら! 逃げるな」
「だ、だって……くすぐったい」
今泉さんの指を挟んだまま、脇に力を入れて身を捩る。
「ほら、これじゃ洗えないだろう?」
彼は挟まれた指を脇の下で動かす。
「だって……今泉さんの指、えっちなんだもん」
泡に濡れた生温かな指先がくすぐったくて、さらに体をくねらせた。
「わかった、わかった。もうくすぐらないから、指を解放してくれ」
今泉さんは目を細めて笑うと、私の額にチュッと軽くキスをした。
「……あれ。こっちの乳首だけ赤くなってる。どうした? ……しみるか?」
左の乳房に視線を落とし、彼は手の動きを止めた。
「夫に、噛まれたから……」
「噛まれたぁ!?」
「あっ、でも大丈夫。しみないから」
乳房に優しく触れる彼の手。その上にそっと自分の手を重ね、笑顔を向ける。
「そうか……つらい思いをしたな。……大丈夫。俺がその傷を治してあげるから」
湧き起こる感情を抑え込むようにそう言って、彼は私の首筋に柔らかなキスを落とした。
夫が私の体に残した傷……感触……。
それらを消し去るように、胸……お腹……太腿……今泉さんは壊れ物を扱うように優しく、ゆっくりと手で撫でていく。
「…………」
私は泡に包まれた体を今泉さんの胸にぴたりと付け、広い背中に手を回した。
心地よい彼の鼓動が聞こえる……。
「ん? どうした?」
「全部洗い流して……あの人が触れた場所、全部に触れて」
身体を離し、彼の右手を取って自分の乳房に触れさせた。
したことのない大胆な行動に赤面する。けれども、彼に染められたいという感情が高ぶり、湧き起こる衝動を止められない。
「優しさだけじゃイヤ。何も考えられないくらいに私を壊して……」
強くされたって構わない。
私の奥深くに触れて、今泉さんの感触ですべてを塗り替えてほしい。――身体中を這い回る熱が、そう懇願している。
「亜紀……」
私を見つめる彼の瞳が揺れる。
「……奪うよ。亜紀の身体も精神も。俺が飲み込んでやる」
彼は耳元でそう呟き、私の願いを受け入れる合図のように、触れていた乳房をギュッと掴んだ。
彼の手のひらが吸いつくように私の右胸を捏ね回し、赤みを帯びた左の先端には、優しくねっとりとした舌先が円を描く。
彼が注いでくれる優しさが甘すぎて、与えてくれる快感が熱すぎて、夫から受けた痛みなど今は感じない。
「あっ……んぅ……はぁ……」
壁に張り付けた身体を震わせ、熱い吐息を漏らす。
頭上から降るシャワーの雨が、二人の身体を包んでいた泡を洗い流す。
「……はぁ……あぁ……」
貪るように舌を絡め、吸い上げ、擦りつける。柔らかな舌の感触が気持ち良くて、下肢に甘い痺れが伝う。
絡め合う唾液が飛び散る水滴を含み、ピチャピチャと水音を鳴らすけれど、水に溺れそうなその感覚にさえ意識を委ねてしまいたくなる。
私は、なんて淫らな女なのだろう……。
先ほどまで痛みを訴えていた下半身は、苦痛に耐え忍ぶどころか、彼を求めて疼いている。
内腿に感じる、蕩けそうな熱。
触れてほしい……。
「……あぁ……今泉さん……お願い……触って……」
乞うように、彼の耳朶に唇を押し当てる。
左脇に舌を這わせていた彼は顔を上げ、声には出さないけれど「大丈夫か?」と言いたげな、私を気遣う目を向ける。
――不倫に愛は存在しない?
ならば、この互いに求め合う、身を焦がすような情熱はどう説明したら良いのだろう。
物欲もない。
束縛も、見返りも求めない。
欲しいものは、ただ一つ……。
「……欲しい……あなたの熱が……」
身体の芯に、灼熱のような欲求が這い回る。
目を潤ませ、彼の頬に唇を寄せて、慈しむように口づけを落とした。
「俺も欲しいよ……亜紀の熱が……」
彼の指が甘い露を絡め取り、膨らんだ蕾を丹念に愛でる。
コメント
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みぅだよ🤍🥀 第117話、読んだよ。 今泉さんの「迷惑かどうかは亜紀が決めることじゃない」って言葉、すごく刺さった。彼の優しさの中にある強い意志が伝わってくる…。 シャワーの場面、痛みを塗り替えるように求める亜紀の心情が切なくて。傷ごと受け止めてくれる存在がいるって、どれだけ救いなんだろうって思った。 この関係がどこへ向かうのか、ちゃんと見届けたい。