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紅子さんと運転手さんに励まされ、安心できて良かったね…🍀✨️
各ストーリーのヒロイン&ヒーローが、紅子デラックスを訪れた小話を読みたい気がする!!
この運転手さんは月から遣わされた方ですか?✨️🌝✨️ すごく愛情深くて素敵🥹 Aliceさん、ノルちゃん、私もそう思ったけど…どうだっけ?
そこへ、店主の紅子が出来立ての『焼き飯』を運んできた。
「は~い♡できたわよ~! いっぱい食べて、お腹の赤ちゃんに栄養をつけなきゃね」
にこやかな紅子に、凪子が申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません、これ……テイクアウトにできますか?」
「えっ? どうしたの、急に?」
「ちょっと、急用を思い出してしまって」
「あら、そう! じゃあ、容器に移し替えてくるわね」
「すみません」
恐縮する凪子に、紅子は「気にしないで~」と笑ってバックヤードへ戻っていった。
その後、信也に気づかれないようにそっと店を出た凪子を、紅子が外まで見送ってくれた。
「春とはいえ、夜はまだ気温が低いわねぇ。あったかくして、冷えないようにね。もうすぐ生まれるんでしょう?」
「あ、はい。再来月が予定日です」
「じゃあ、なおさら大事にしないと。凪子ちゃん」
「えっ? どうして私の名前を……?」
「ふふっ、そりゃ分かるわよ。二人が結婚した日、マスコミが盛大に中継してたんですもの」
「あ……」
凪子は、二人の姿がテレビ中継されたことを思い出す。
紅子は店に入った瞬間から、凪子が『信也の妻』だと気づいていたのだ。
驚く凪子に、紅子は優しく語りかける。
「あなたと結婚する前にね、信也ちゃん、私にこんなことを言ったのよ。『寝ても覚めても頭から離れない女とは、一緒になるべきですよね?』って」
その言葉に、凪子の心臓がドクンと跳ねた。
(それって……私のこと?)
紅子は続ける。
「だから私、言ってやったの。『そんなふうに思える女性に出会えたなら、絶対に手放しちゃダメよ』ってね。そうしたら、あのテレビの中継でしょう? 腰抜かしそうになったわ。ふふふ」
紅子は当時を思い出して楽しそうに笑った。
凪子は胸がいっぱいで、言葉が出ない。
そんな彼女に、紅子は諭すように言った。
「信也ちゃんなら、きっと大丈夫よ。何も心配いらないわ。だからね、あなたはただ思い切り甘えていればいいのよ」
紅子の優しい言葉に、凪子の瞳には涙があふれた。
「ほらほら、そんな顔しないで。あなたは十分に愛されてるんだから、胸を張って堂々としてなさい」
「……はい」
「それに、もうすぐ家族も増えるんでしょう? 信也ちゃん、絶対に赤ちゃんにメロメロのパパになるわよ。私が保証するわ」
「そうでしょうか?」
「そうに決まってるじゃない! 何、自信のないこと言ってるの。もう、しっかりしなさい!」
紅子は笑いながら、優しく凪子の背中を叩いた。
「さあさあ、こんなところで立ち話をしてると冷えちゃうわ。あ、ちょうどあそこにタクシーが停まってるじゃない」
紅子が手を上げると、タクシーがすぐに二人の前に滑り込んできた。
車に乗り込む前、凪子は紅子に向かって言った。
「紅子さん、ありがとうございました。あの……今夜のこと、彼には……」
「ふふっ、言わないわよ。だからあなたもしらんぷりしてなさい。夫婦だからって、何でもかんでも話す必要はないんだから」
「はい……」
「家に帰ったら、ゆっくりお風呂に浸かって温まりなさいね」
「はい。本当にありがとうございました」
「うん、じゃあね、赤ちゃんが生まれて落ち着いたら、また店にいらっしゃい。今度は『家族』でね!」
「はい、必ず!」
「じゃあ、運転手さん、お願いします」
紅子は運転手に声をかけ、微笑みながらドアを閉めた。
凪子が窓越しの頭を下げると、紅子は笑顔で手を振っていた。
車が走り出して前を見ると、そこには来るときに乗ったタクシーの運転手が微笑んでいた。
「あっ、さっきの……」
「どうも。このままご自宅でよろしいかな?」
「……まさか、待っててくれたんですか?」
「ははっ。娘と同じくらいのお嬢さんを見かけたら、ほっとけなくてね」
その言葉に、凪子の胸がじんと温かくなる。
「ありがとうございます」
「その様子だと、無事解決したみたいですね」
「はい。私の取り越し苦労だったみたいです」
「それはよかった。安心しましたよ」
「すみません。ご心配をおかけして……」
凪子は照れくさそうに笑った。
そして、ふと思い出したように尋ねる。
「運転手さんのお嬢さんは、その後、おひとりでお子さんを育てていらっしゃるんですか?」
「いや、実家に戻ってしばらくしてから再婚したんですよ」
「え、そうなんですか?」
「ええ。地元の同級生とご縁があってね。今は二世帯住宅にして、私たち夫婦と一緒に暮らしてます」
「わあ……良かったですね、本当に……」
凪子は、自分のことのように嬉しくなった。
そのとき、運転手がふと空を見上げて言った。
「今夜は満月ですね。煌々と明るい月が出てますよ」
「本当……綺麗……」
「満月はパワーが強くて、人の心を揺らすこともある。でもね、そのパワーを前向きに取り込めば、運が開けるんですよ」
「前向きに……?」
「そう。物事は考え方次第。どう受け取るかで、答えはまるで違ってくる。だから、常に前向きにね。そうすれば月の光に惑わされることもない」
「なるほど……」
行きとは全く違う穏やかな気持ちで、凪子はタクシーに揺られていた。
今日初めて会った紅子と運転手に励まされ、彼女の気持ちは軽やかになっていた。
(前向きに……ふふっ、そうね……)
そう心の中でつぶやきながら、凪子は笑顔のまま、流れゆく夜の街灯りを静かに見つめ続けた。