テラーノベル
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岡本家には二人の子供がいたが、流星たちより年上で、今は東京で暮らしている。
食事をしながら岡本が尋ねた。
「流ちゃん、大学はやっぱり東京に行くのかい?」
「はい。まあ、受かればですけど……」
「ははっ、そりゃそうだ。でも、こんなとこでバイトしてて大丈夫なのか?」
「大丈夫です。模試でA判定が出てるので」
「さっすがだねぇ。流ちゃんは昔から賢かったからなぁ」
美香子も微笑みながら言う。
「ほんと、岳大さん夫婦が羨ましいわ。流ちゃんはきっと国立ストレートでしょ? うちは二人とも東京の私大だったから、お金がかかって大変だったのよ~」
「二人とも俺の頭に似たんだからしょうがないだろ」
岡本の言葉に、三人は声を上げて笑った。
流星はふと気になり、瑠奈に向き直る。
「瑠奈さんは?」
「私? 私は……どうなるのかな……」
「え、まだ決めてないの? もう夏だよ」
同じ高三の瑠奈がまだ進路を決めていないと知り、流星は思わず驚きの声を上げた。
「うん……いろいろあって、まだ決めかねてるの」
その言葉で、流星は岡本が言っていた『家庭の事情』をすっかり忘れていたことに気づいた。
きっと家のごたごたのせいで、進路どころではないのだろう。
そう思うと、自分の無神経さが急に恥ずかしくなる。
「ごめん、そうだったね……」
「おじさんから聞いた?」
「うん、なんとなく……」
「うちはねぇ、今、母親の浮気が父にバレて、すったもんだしてるの。だから、私の進路どころじゃないのよ」
あっけらかんという瑠奈を見て、流星は言葉を失った。
そのとき、美香子が口を開く。
「まあでも、瑠奈ちゃんはパパと暮らすことになるんじゃない? パパがそう言ってたわよ」
「うん。たぶんそうかも……。私だって、若い男に色目を使う母親となんて暮らしたくないですから」
「まあまあ、瑠奈ちゃん。大人の世界にはいろいろ事情があるからさ……」
すると、穏やかだった瑠奈が突然椅子をガタンと鳴らして立ち上がった。
「大人の世界? 大人の事情? それっていったい何ですか? 娘の大事な時期に揉めるほど大事なものなんですか?」
そう叫ぶと、瑠奈はそのままリビングから走り去ってしまった。
「あ……」
流星が立ち上がり追いかけようとすると、岡本夫妻が止めた。
「流ちゃん、大丈夫よ。あの子はいつもああなの。小さい頃から母親の愛情が薄くて、情緒がたまに不安定になるのよ」
「そうそう。驚いたかもしれないけど、あれが普通だから……ごめんね。で、悪いんだけど、この夏は、あの子と一緒にカフェの応援に入ってもらってもいいかな?」
突然の申し出に、流星は目を見開いた。
「え? 瑠奈さんもカフェですか?」
「そう。君となら、あの子も落ち着いて仕事ができると思うんだ。だから、君にカフェをお願いしたかったんだよ」
「そういうことでしたか……」
「ロッジの方にあの子を入れたら、きっとトラブルになる。だから申し訳ないけど、二人でカフェを担当してほしいんだ」
困り果てた岡本の気持ちはよく分かった。
流星は、妹・星歌の扱いで『手に負えない女』には慣れている。
「分かりました」
「ありがとう、流ちゃん。夏の間、よろしくね」
美香子がほっとしたように頭を下げたので、流星もぺこりとお辞儀を返した。
こうして、流星の高校生最後の夏が始まった。
その頃、信濃大町の家では、庭のウッドデッキの椅子に岳大が座っていた。
そこへ、優羽が缶ビールを持って出てくる。
「ビール飲むでしょ?」
「ありがとう。星歌は?」
「今、お風呂に入ったわ」
「そうか……」
岳大はビールをプシュッと開け、美味しそうに一口飲んだ。
「なあ、優羽……」
「なあに?」
「僕は君を幸せにできているかな?」
突然の言葉に優羽は驚いたが、すぐに穏やかに微笑んで答えた。
「十分すぎるくらい幸せよ。あなたと結婚して本当によかった……」
その言葉に、岳大はホッとしたようにうなずく。
「それならよかったよ。安心した」
すると今度は優羽が尋ねた。
「あなたは? 私はあなたを幸せにしてあげてるかな?」
その問いに、頬をゆるめながら言った。
「十分すぎるよ」
「あ、私と同じ答え! ずるいわ」
「ははっ、真似したわけじゃないよ。本当にそう思ってるんだ」
「そう? それならよかった」
優羽はほっとしたように息をつき、夜空を見上げた。
「優羽。君は、流星と星歌という宝物を僕にくれたんだ。だから、僕は最高に幸せなんだ」
「ううん。私の方こそ、流星を実の子のように可愛がってくれて、とても感謝してる……」
「流星は実子と変わらないさ。僕の若い頃とそっくりだからね」
「そうなの?」
「ああ。シャイなところとか、そっくりだ」
二人は思わず顔を見合わせ、ふふっと笑った。
「今ごろ、寂しがってるんじゃないか?」
「そうかも。いつもうちは賑やかだから……」
「でも、たまにはこういうのもいいね」
「ふふっ。たしかにそうね」
二人は微笑み合ったあと、再び夜空へ視線を向けた。
信濃大町の夜空には、美しい天の川がくっきりと広がり、静かな夜を優しく照らしていた。
コメント
4件
岳大さんと優羽ちゃんも、幸せそうで良かった…🍀✨️
(。´-ノд-`)ボソッ パパママ、心配しなくても寂しがってる暇はないと思うよ。 二人のお子ちゃまは、恋にバイトに大忙しなはず!
瑠奈ちゃんには家族のゴタゴタは重荷でしかないね😔😱 流星くんと瑠奈ちゃんのバイト生活がとても楽しみ😋 そして優羽ちゃんと岳大さんはいつまでも出会った頃のままのラブラブ💖あ〜羨ましい💫