テラーノベル
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「だから、その匂いって? わかんな……い……あっ……」
ゆっくりと円を描くように膨らみを撫でていた彼の指が、敏感な右の先へ触れた瞬間、私はびくっと小さく身体を震わせた。
「ん? 匂い? それはもちろん、亜紀が放つフェロモンだろ?」
彼は私の反応を楽しむように、意地悪な笑みを浮かべながら指先を遊ばせる。
「……フェロモン? フェロモンに匂いが?」
くすっと小さく笑い返しながらも、眉根を寄せて熱い吐息を漏らした。
「もちろんある。
男の嗅覚を刺激する、全身から漂う淫らな女の匂い……」
甘く囁く彼の声に重なるように、胸から下へとゆっくり肌を辿っていく指先。
「……んんっ……あっ……」
触れるか触れないかの、くすぐったさにも似た柔らかな刺激。
もどかしさに身体は小刻みに震え、私は悩ましげに腰をくねらせた。
「そして……甘くて敏感な、ここ……」
「……ああっ……」
滑り込んできた快感に耐えきれず、もの欲しげに開いた唇から大きな声が漏れる。
「……もうこんなになって……
また欲しくなった?」
私にわざと淫らな音を聞かせるように、露を絡めた指をゆっくりと揺らし始める。
「……そんなっ……だめ……ああっ……」
切なげな瞳で彼を見つめ、激しくなる息を飲み込みながら、私はぶんぶんと首を横に振った。
「ダメ? ここはそんなこと言ってないけど?」
彼の指が快感を探るように、ゆっくりと奥へ押し進められる。
それを受け入れた内側は、その動きに合わせて小刻みに震え始めた。
「亜紀が俺を離さないんだぞ?」
私の耳元で、くすっと意地悪そうに笑う。
言葉とは裏腹に、彼の誘いへ素直に反応してしまう私の身体。
「……イヤ……
そんなこと言わないで……」
込み上げる羞恥に、涙声にも似た掠れた声が漏れた。
「こんなにも快楽に従順で淫らな身体は初めてだ……。
想像していた以上に素敵だよ。
きっと、そのドクターも一度亜紀を味わったら病みつきになる」
今泉さんは柔らかな声でそう言うと、満足そうに目を細め、口元へ穏やかな笑みを浮かべた。
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え……
それって、もしかして……
あの男と……
「……同じなの?
今泉さんも? 私が人妻だから……」
同じ人種って……
そういう意味なの?
与えられる悦楽の中、私は恐る恐る彼の頬へ手を添え、その瞳の奥へ悲しげな色を映した。
「ん?……
亜紀が人妻だから惹かれたのかって?」
「……」
私は唇を閉じたまま、小さくこくりと頷いた。
「人妻だから……とは、ちょっと違うな。
人妻である亜紀だからこそ、こんなにも魅力を感じる……かな。
この違い、分かるだろ?」
今泉さんは私の頬を優しく撫でながら、穏やかに目を細めた。
「………」
人妻である私だから魅力を感じる……?
「なら……
もし、私が独身だったら?
興味は持たなかったの?」
彼の瞳を見つめ、震える声で問い掛けた。
「もし亜紀が独り身だったら?
そうだな……
亜紀という女性に惹かれることはあっても、今の関係にはなっていなかったかもしれないな」
「……どうして?
どうして私が独り身だったら駄目なの?」
自分の家庭を壊される危険があるから?
『身体だけの関係』なら、相手も既婚者の方が都合がいいから?
突然、切なさが胸を締めつけた。
私の気持ちを知ってか知らずか、言葉を交わしながらも続けられる彼の柔らかな愛撫。
募る切なさとは裏腹に、身体の奥では熱が静まることなく彼を求め続けている。
切なくなるほどに……
身体は彼を求めていく。
心と身体が分離する。
この感情は……
この感覚は、何?
「今泉さん……」
熱い吐息を漏らしながら、私はそっと彼の頬へ触れた。
「亜紀、俺は……」
今泉さんは私を真っ直ぐに見つめたまま、唇の動きを止めた。
そして、
「端から見れば、俺はただの卑怯な男だ。
だけど、亜紀に対してだけは、いつも誠実でありたいと思ってる……」
優しく、それでいてどこか悲しげな瞳で、静かに言葉を紡いだ。
偽りのない彼の瞳……。
偽りのない彼の言葉……。
抱きしめられた肌から伝わる、確かな愛情……。
私は……
人妻である自分の立場も見失い、彼に一体何を期待していたの?
――『人妻だろうが独身だろうが、どんな亜紀にも惹かれたよ。
君だけを愛してる』
そんな口説き文句を、言ってもらいたかった?
言葉の奥に秘められた、決して口にすることのできない心の声。
『愛してる』と声にできたなら――
『愛してる』と声にして言ってもらえたなら――
現実を捨て、恋愛感情だけに溺れ、愉悦の世界へ身を委ねてしまえたら……
どんなに楽になれるだろう。
けれど、彼は決して甘い言葉を口にしない。
男の独占欲だけで、女の心まで狂わせたりしない。
きっと、それが彼の信じる誠実さだから……。
彼の持つ大人の優しさに気づくたび、自分の中に眠る女心が静かに揺れ動く。
制御できなくなりそうな想いで、胸が苦しい……。
「今泉さん……
もう一度抱いてください。
貴方と一つに繋がっていたい……」
彼と溶け合っている時間だけが、
触れ合う肌の温もりだけが真実――。
『今泉さん……愛してる』
伝えられない言葉を胸の奥へ飲み込み、私は彼が与える快楽の波へ静かに身を委ねた。
コメント
1件
うわ、このエピソードめっちゃ重くて切なかった…。亜紀の「人妻だから?」って問いかけと、今泉さんの「人妻である亜紀だからこそ」っていう誠実な答えの温度差が胸にくる。心と身体がバラバラになっていく感覚、すごくリアルに描かれてて読んでて苦しくなった。最後の「伝えられない言葉を飲み込む」シーン、めちゃくちゃ刺さった…。柏木さん、大人の恋愛の機微が本当に上手いわ。続きが気になる🔥