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夕方、入口でヒールの音が止まった時、最初に顔をしかめたのはモルリだった。
「また来た」
パルテナは前回と同じように華やかな服で立っていたが、今日は笑っていない。駅前の明るい場所からそのまま持ち込んだような鋭さはあるのに、どこか疲れが混じっている。
「見学。だめ?」
「口が刺さる人の見学は有料です」
モルリが言う。
「じゃあ後で払う」
パルテナは即答した。
「今日は黙るから」
その一言が意外で、モルリは返す言葉を失う。ホレが困った顔でデシアを見ると、デシアは少し迷ってから頷いた。
「座るなら後ろで」
パルテナは素直に従った。本当に黙って、後方のパイプ椅子に座る。
読みが始まる。
サベリオはまだ危なっかしい。台詞の途中で息を探すし、感情を乗せると語尾が消える。だが、聞いている側が次の言葉を待ってしまう間がある。デシアはその間を逃さず拾い、場面をつなぐ。モルリは相変わらず勢いで走り、ヌバーは余計な色気を足してホレに睨まれる。
通しが終わっても、パルテナはすぐには口を開かなかった。
橋の下にしずくの音が落ちる。ヌバーでさえ、今日は感想を急がない。
やがてパルテナが立ち上がる。
「……下手ね」
モルリが「やっぱり!」と立ちかけるのを、ミゲロが袖を引いて止めた。
パルテナはサベリオだけを見ていた。
「下手。でも、嘘がない」
サベリオの肩がわずかに揺れる。
「上手い人は、上手く聞こえる場所にちゃんと声を置ける。あなたはまだそこまで行ってない」
パルテナは歩きながら言う。
「でも今の声、逃げたいのに逃げないで立ってる人の声だった。客はたぶん、そっちの方を先に信じる」
シェルターに静けさが広がる。
パルテナが誰かを褒めること自体、珍しいのだろう。本人も慣れていないようで、言い終えたあと少しだけ気まずそうに前髪を払った。
デシアが口を開く。
「ありがとう」
「まだ終わってない」
パルテナはすぐに視線を逸らした。
「それと、あんたにも一個だけ」
デシアが首を傾げる。
「説明しすぎ。守ろうとすると、言葉が親切すぎて丸くなる」
パルテナはそこでデシアの台本を軽く叩いた。
「丸い言葉、泣く時はいいけど、立ち上がる場面では弱い。もっと刺して」
デシアは驚いた顔をしたあと、少し笑う。
「あなたに言われると、妙に説得力ある」
「あるでしょ」
パルテナは鼻先で笑った。
帰り際、モルリが入口までついていく。
「今日、刺さらなかったね」
「頑張ったのよ」
パルテナは振り向かずに言う。
「刺す以外の言い方、あんまり知らないから」
その背中が雨の気配の中へ消えていく。
誰もしばらく動かなかった。
ジャスパートが最初に口を開く。
「……敵の感想が一番具体的だったな」
「敵って、まだ敵かな」
ホレが小さく呟く。
サベリオは入口の方を見たまま、まだ胸のどこかが熱かった。
下手だと言われたのに、前よりずっと立っていられる気がした。