TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

蓮司は、笑っていた。何の脈絡もなく、まるでテレビの話でもするような声色で、ふいにこう言った。


「ねえ遥、日下部、最近おまえのことよく見てるよ」


瞬間、心臓がどくりと鳴った。

何かの罰のように、呼吸が止まる。


「……は?」


掠れた声が喉の奥で転がる。問い返すような響きにはならなかった。


「いや。別にどうでもいいんだけどね。俺、あいつとそんなに仲良くないし」


蓮司はそう続けながら、ソファに崩れるように座って遥の顔をのぞきこむ。


「でも、面白かったから。……なんかさ、おまえのこと、“抱きしめたら壊れそう”って、ぽつっと言ってたよ。誰にも聞こえない声で」


――やめろ。


その言葉は、口から出ない。ただ、耳の奥で何かが爆ぜる。


(そんなわけ、ないだろ。なんで……)


心の中で、誰かが「ほんとうに?」と囁いた。

その声は、遥自身のものだった。

自分でも気づかぬうちに、信じたくなっていた。


日下部の声。手の温度。

「触れたい」と思ったことを、遥は何度も何度も自分の中で踏み潰してきた。


それなのに、今。

そんな戯言一つで――信じてしまいそうになった。


「でもさ」


蓮司の指が顎にかかり、強く上を向かされる。


「おまえって、“欲しがったら壊す”んじゃなかった?」


その声は甘く、爪を立てたような優しさだった。


「なのに、どうするの? 欲しがっちゃうの? 日下部を?」


遥の腹の奥が冷たくなった。

世界が、ぐらりと傾いた。


「……違う、俺は……そんな、つもりじゃ……」


言葉が震える。

言えば言うほど、浅ましくなる気がした。


「ねえ遥」


蓮司の顔が近づいた。

瞳が、氷のように澄んでいた。


「“救われたい”って、思った?」


(ちがう。そんなの、俺が思っていいことじゃ――)


――でも、思った。


喉が、焼けるようだった。

指先が痺れた。

この瞬間、何かが決壊しかけていると遥自身が分かった。


蓮司は、それを知っていた。

知っていて、壊れる瞬間を愉しんでいた。


「ねえ、思ったよね? だって顔に出てる。ねえ、言ってみなよ。『助けてほしい』って」


遥の目の奥で、なにかが音を立てて崩れた。



この作品はいかがでしたか?

26

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚