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……先程は取り乱してしまい、本当に申し訳ありません、先生。
ええ、お陰様で少し落ちつくことができました。
あ、ミト……。眠ってますね。
ええ、本当にその通りですね。
母親の私が動揺しているせいで、この子にまで毎日、不安で落ち着かない思いをさせてしまって。それが本当に申し訳なくて情けなくて……。
――え、催眠療法ですか?
催眠術をかけてもらって過去の記憶を探る……っていう。
……それはつまり、神様が存在するとかしないかよりも、どうして私がこんなに恐怖心を抱いているのか、と言うことの方が重要ということでしょうか?
恐怖の原因となった記憶を探り当て、ちゃんと向き合えば――ストレスも解消されて平穏な日常を取り戻すことができるんですね。
……分かりました。
そういうことでしたら是非お願いします。
――そのペンライトの光を見つめながら、十数えればいいんですね?
実は私、催眠術を体験するって生まれて初めてで。
何だか緊張してしまいますね……。
あ、ごめんなさい。
ちゃんと集中しますね……。
……一つ。……二つ。……三つ。……四つ。……五つ。
……六つ。……七つ。……八つ。……九つ。
……。
……ん? ……なぁに? ……ここ?
ええっとね、ここは――、多分、カリンのおうち。
長ーい廊下が玄関まで真っ直ぐ伸びていて……。
窓から差し込む夕陽が床を真っ赤に照らしてて、すっごく綺麗なの。
……目の前にあるもの?
ええっとね。
……大きなふすまが見える。
大広間のおっきいふすま。
大広間はね、普段あまり使われないんだよ。
大広間には祈とう所のやつとは別のご神体――、お面が飾られていて。
塚森家や一族の誰かが成人した時とか、お正月とか、お祀りの後とか、親戚みんなで集まって神様と一緒に宴会する時に使うの……。
ん? 大広間に入りなさい?
はーい。
じゃあ、そうしまーす。
……よいしょっと。
入ったよ、大広間。
どんな感じ?
んー。そう言われてもなぁ……。
雨戸閉めっぱなしだから真っ暗だし少しジメジメしてる、ぐらいしか言うことないんだけど……。
えっ、手に持ってるもの?
あっ、これ。恐竜大図鑑……。
多分、学校の図書館で借りて来たやつだよ。
カリン、トリケラトプスが好きだから。
……だ、誰かが、何か言ってる。
う、ううん。気のせいじゃないよ。
だって、さっきからずっとカリンの名前を――。
……あ。……いた。
天井の近くのむな木の上……。
どんな子? ええっと……。
かぐや姫みたいに髪の毛が長いけど、男の子か女の子かよく分かんない。それと、お祭りの時のおちごさんみたいな服着ていて……、目が一つしかない。
あっ、ちがう。
がんたい……。あの子、がんたいをつけてたんだ。
――ねえ? そこの、知らない子?
そんなところで何してんの?
落っこちたら――、大怪我するよ?
打ち所が悪かったら、死んじゃうんだよ。
早く降りておいでよ。
……あの子、笑ってる。
カリンを見下ろして、大爆笑してるの。
……えっ。……や、やだよ。
この恐竜大図鑑、学校で借りた本だもん。
カリンもまだ途中だし――、知らない子には貸せないもん。
……ひっ!?
知らない子が、お、降りて来た。
むね木はあんなに高いのに、ぴょんとジャンプして――。
ど、どうしよう。
知らない子、すっごい怒ってて――。
長い髪の毛を逆立てて、カリンのこと睨んでる……!
それに背中の後ろで、ブワッと広がったのは――鳥の翼?
こ、怖い……!
早く逃げないと……!
え? 時計の針を進めるの?
わ、わかった。やってみる……!
…………。
んー?
ここ、どこぉ?
……げげっ。祈祷所じゃん。
うちのお宮の。
私、嫌いなんだよね。神様とか神事とか。
中学生になってからは普通の、表のお祭りにだって顔を出してなかったんだもん。
なのに、それなのにさ……。
どうして神葬式なんかに出なきゃいけないの?
それが自分の親――しかも、二人同時に死ぬなんて、最悪にもほどがあるでしょ!
…………。
泣いてるの、って? ……そりゃ泣くでしょ。
私、塚森家の様式は大嫌いだけど家族のことは好きだもん。
……神様?
嫌いよ! 大嫌い! 嫌いに決まってるでしょ!
私も家族も――塚森家なんかに生まれてこなければ、もっと普通に、幸せになれたのに!
パパとママは交通事故に遭ったってレイジ兄さんは言ってるけど、そんなのウソ!
怪異だよ!
祓いそこねた化け物が、仕返しに二人を殺したんだ!
何が稚児天狗だよ! 何が外法だよ!
大体、あいつが、ちゃんと二人を見守っていてくれたら!
……ッ!?
い、今、バキッてすごい物音が――。
ご、御神体が、天狗の面が真っ二つに割れてる……。
……な、何よ。私のせいだって言うの? 私の不信心こそが、パパとママを殺したって言うの?
そんなの、そんなのって――。
……。
……あ。……電車、来たみたい。
うん、わかってる……。
安心してよ。私ももう二度と塚森家には戻らないつもりだからさ……。
そうだね。夢ノ宮は、ここから一時間ぐらいしか離れていないけど。レイジ兄さんも知ってる通り、私、神様に嫌われてるからさ。
ちょっと、変な気の遣い方やめて?
どうして兄さんが謝るの?
……いいの、私だって私が嫌いだもん。
あーあ、本当に最悪。
こんな気持ち、いつまで引きずって生きなきゃいけないんだろ?
……きっと、死ぬまでずっとだよね。
私がよそと違う自分の家を嫌ったから。
私が千年間も続いた塚森の祭祀を蔑ろにしたから。
ちょっと待って――!
あそこにいるのって……。
よく見て、向かいのプラットフォームの屋根の上。
稚児姿の子供がいる。片目を、右目を眼帯で覆った子供が。
笑ってる、あの子。こっちを指さして。大きな声をあげて。
ま、待って。
あの子供、私に何か話しかけている。
あの口の形は……。
――お前の、娘に、会いに行く、からな。