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やけに静かな夜だった。
遥の身体はちゃんと反応している。
息も、熱も、脈も──触れたところすべてが“正しく”反応している。
なのに、つまらなかった。
「……なあ、遥」
声をかけても、目を伏せたまま、何も返ってこない。
顔のどこにも感情がない。ただの、壊れた端末。
「おまえ、ほんとにさ──」
「それでいいの?」
指を滑らせる。腰骨、脇腹、喉。
びくりと一瞬だけ反応した。けれど、それだけ。次の瞬間にはまた、何もなかったような顔に戻っている。
「……なにそれ。つまんね」
蓮司は舌打ちすらしない。ただ、呆れたように笑う。
「それ、サービス? それとも忠誠?」
「どっちでもいいけど──俺、そういうのには勃たないんだよな」
遥の耳が、わずかに揺れた。 けれど返事はない。
蓮司はもう一度、触れようとした指を止めた。
「ねえ、わかってる?」
「俺、おまえが“傷ついてる”から面白かったわけじゃないんだよ」
「“傷つきながら、それでも何かを守ろうとする”とか、“知られたくなくて震えてる”とか──そういうのが、面白かったの」
「今のおまえってさ、“最初から折れてるやつ”じゃん。もう割れてる皿、投げても割れないんだよね」
乾いた笑いが漏れる。
「ねえ、遥──おまえ、ほんとに、それでいいの?」
遥の喉が、かすかに動く。けれど声は出ない。
蓮司は、ようやくその手を引いた。
「……つまんね。飽きた」
布団から身体を抜き取る。
シャツを羽織りながら、遥の背中を一瞥する。
「じゃ、明日は別のとこで、遊ぶわ」
「──たとえば、そうだな。日下部とか?」
遥の指先がぴくりと動いた。
その一瞬に、蓮司は口角をゆがめて笑う。
「ね、そういうの。そういう反応、俺、好きなんだよ」
「明日が、楽しみだな」
そう言って、蓮司は部屋を出て行った。
遥は、動けなかった。
胸の奥が、ざらざらと音を立てて崩れていく。
(俺は──また、守れなかった)
(結局、何をしても……)
目を閉じても、蓮司の声が耳に残っていた。
「“最初から折れてるやつ”じゃん」
それが、“評価”だった。
遥は、喉奥でかすかに吐き出すように笑った。
自分が「何をしたか」ではない。「どう見えたか」だけが、すべてだった。