テラーノベル
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石造りの牢屋は陽の光を一切拒み、湿った壁には黒ずんだ苔が静かに張り付いている。
錆びた鉄格子の隙間から吹き込む冷たい風が、黴と土の匂いを運び、重苦しい空気を揺らす。
黒魔術によるテロおよび拉致監禁の罪で捕らえられた狸少女、刑部佐貫は、《魔法局》の牢の中で突然もがきはじめた。
「ぐぅぅぅ…….あぁぁぁぁ!!!」
刑部が身体をかきむしりながらのたうち回る。
刑部の口から百足が、雀蜂が、蜘蛛が蛇が蛞蝓が這い出る。
涙腺からとめどなく蛆が湧き、皮膚をうぞうぞと百足が這い回る。
「これは……舎蘭様の黒魔術…..!!血が適合したのですねぇ……!!」
次々と蟲を吐き出し、のたうち回りながらも
刑部は恍惚とした表情を浮かべる。
主の復活の兆しをその身に感じ、ぶるぶると歓喜に打ち震える。
「こうしてはおれません……!!必ずこの牢を抜け出し、あなた様をお迎えにあがります。
待っていてください舎蘭様。舎蘭様舎蘭様舎蘭さまぁぁぁ!!!」
刑部の狂気的な笑い声が牢中に響き渡った。
◆◇◆
(天国美視点)
狸少女に拉致られたことからはじまった事件から2日経ち、私は職場へと復帰した。
「へるちん、一昨日トイレ行ったっきり仕事に帰ってこなかったけど何かあったん?」
勤務中、カウンターでお客様を待っていたギャルメイク先輩が私に話しかける。
「えっと……こないだカキをドカ食いしたせいかおなかこわしちゃってぇー」
たはは、と私は頭をかく。
「マ?災難だったねー」
ギャルメイク先輩は適当な相槌を打ち、商品の在庫を確認しに行った。
ギャルメイク先輩のスルースキルにはなんだかんだいつも助けてもらっている。
どうやら一昨日の狸少女達によるテロの記憶は本当に魔法局の人達によって改竄されているようだった。
私は職場に戻れてほっとすると同時に、簡単に人の記憶や記録を改竄してしまえる黒魔術の恐ろしさを体感した。
「でも、あんま深く考えてもしょうがないですよね。よし、今日もお仕事お仕事」
小声で呟き、天国美はレディーススーツの襟を正す。
ふと、頭の中で舎蘭の声がした。
(天国美!天国美!見たことがないものがいっぱいだわ!!あの板切れはなにかしら)
天国美は背筋をピンと伸ばし目を見開く。
頭の中で舎蘭さんに返事をした。
(ちょっと舎蘭さん!?今仕事中なんですけど!!急に話しかけないでください!!)
(あら、いいじゃない、ずっと黙ってたって暇なんですもの。それよりすごいわ天国美!!あのおっきな板!!なんか滝が映ってる!!黒魔術なのかしら)
(ああ ー、あれは液晶テレビですよ色んな映像が見れるんです)
(すごいすごい!!じゃああの色とりどりの板は何に使うの!?)
(あれはスマホって言って遠くの人とお話したりするのに使う道具です。舎蘭さんっていつの時代の人なんですか?)
(えーっとねぇ、平安時代に生まれてー、明治あたりに死んだわ)
(はえーすっごい昔)
(やっぱり数百年も経つと色々なものが新しくなって面白いわね!)
舎蘭さんが声を弾ませた。
舎蘭さんの無邪気な言動に思わず破顔すると、店内を歩いていたサングラスをかけたかぎ鼻のおばさんと目が合う。
おばさんが私をキッと睨んだ。
ここ数ヵ月の職場体験から私はクレームの気配を察知した。
おばさんが大股で私の方を歩く。
「あーた今私を見て笑ったザマスね?」
おばさんがサングラス越しに私を睨む。
「いえ、決してそのようなことは……」
「いーや笑ったザマス!!その心、笑ってるザマス!!この店はどんな教育をしてるんザマスか!!責任者を呼ぶザマス!!今すぐ!!」
「申し訳ありません!!」
私は深々と頭を下げる。
「ごめんじゃないザマス!!いいから責任者を呼ぶザマス!!そんな簡単なことも出来ないなんてこれだから庶民は……」
おばさんがすごい剣幕で捲し立てる。
……しかたない。今のは完全に私のミスだ。
店長に迷惑をかけちゃうなぁ……。
私がそう思った時、突然おばさんがおなかをおさえた。
「な、なんザマスか!?急に腹が…….トイレっ…….早くトイレに案内するザマスー!!」
「は、はい!!」
私は突然の出来事にとまどいながらもおばさんを店内のトイレへと案内した。
(あっはっは!!いいザマねぇ。あのおばさんには今後一生クレームをつける度に謎の下痢と
腹痛に襲われる呪いをかけてやったわ!!)
脳内に笑い転げる舎蘭さんの声が響く。
(……舎蘭さん、助けてくれたことには礼を言います。だけどこんなことはもうしないでください。ちょっと嫌なことがあったぐらいで人を呪うなんて間違ってます)
(あなたはお礼が言えるいい子ね。でもお生憎様、私は誰の指図も受けないの。私に指図していいのは私だけよ)
舎蘭さんに何を言っても糠に釘みたいだ。
私はため息をつき、業務に戻った。
◆◇◆
「ただいま!!おねぇちゃん!!」
「おかえり天国美」
家に帰るとおねぇちゃんが普段は着ないようなストライプシャツとロングスカートを着て料理を作っていた。
「あれ?おねぇちゃん今日なんかお洒落な服着てますね。いつもはゴスロリかクソダサ服なのに」
「余計なお世話よ。……今日、映画を見た後、楓子さんに買ってもらったの」
「……ふーん」
その服、楓子さんに買ってもらった服なんだ。
ふーん。
「何よ……やっぱり変なわけ?」
おねぇちゃんが身体を縮めながら私をジト目で見る。
「いえ、清楚な文学少女って感じでとても似合ってます。天国美ポイント100万ポイント贈呈です」
「なんなのそのポイント。アホなこと言ってないで風呂入ってきなさい。今日は肉じゃが作っといたから」
「さすがおねぇちゃん!!今すぐシャワー浴びてきます!!」
「はいはい」
◆◇◆
冷たいシャワーを浴びる。
流れる水は私の心の黒い塊を洗い流してはくれない。
「よかったじゃないですか……おねぇちゃんと楓子さんが仲よさそうで。ちゃんとデートも順調そうで」
そう自分に言い聞かせる。
湯気の向こうに、白い人影がゆらりと浮かぶ。
振り向くと、裸の舎蘭さんが後ろから私を抱きしめていた。
(あなたは楓子さんって人もおねぇちゃんも大好きなのね。だから苦しんでる)
(びっくりしないで頂戴。この身体はあなたの心が見せた幻よ)
「……舎蘭さん」
(私、あなたのことは気に入ってるの。だって、あなたの心の中は住み心地がいいもの)
(だからあなたにアドバイスしてあげる)
(人を好きになることと、その人を憎むことは矛盾しないわ)
(好きな人に幸せになってほしいという気持ちと、好きな人を許せない気持ちは決して矛盾しないの)
「……舎蘭さん、私、どうしたらいいんですかね。どうして、おねぇちゃんと楓子さんが仲良くなるのがこんなに苦しいんでしょうか……」
(誰かを好きになるってそういうことよ)
(どうしてもその人達のことを許せないなら、いっそ呪っちゃってもいいのよ。誰にだって人を呪う権利はあるわ)
そう言って舎蘭さんは私の頭を優しく撫でた。
「呪うのは……遠慮しときます。でも、ありがとうございます。おかげでちょっとスッキリしました」
(……そ。誰かを呪いたくなったら私を頼りなさい。これも、何かの縁だもの)
そう言って舎蘭さんの幻は消えてしまった。
お風呂から上がって、私はおねぇちゃんに抱きついた。
冷水で冷たくなった身体が、おねぇちゃんの体温であったまる。
「つめた!?」
おねぇちゃんがびっくりして跳ね上がる。
「おねぇちゃん達だけ服買いに行ってずるいです!!私も服買いたい!!」
「……そしたら、こんど皆で買いに行く?」
「はい!!」
「じゃ、さっさと食べて今日は寝るわよ!」
「肉じゃが!つゆ多めでお願いします!!」
「はいはい」
その日の夜、私はおねぇちゃんにくっついて熟睡した。
タイムリミットまであと25日。
コメント
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第37話読み終わったよ〜!!🦊💥 刑部さんの蟲ダダ漏れシーンがマジでホラーで震えたんだけど、舎蘭様への狂愛がヤバすぎて逆に笑ったww 天国美ちゃんと舎蘭さんの脳内漫才も可愛くて、クレームおばさんに呪いかけるとこスッキリした〜! でもお姉ちゃんと楓子さんの関係にモヤる天国美の心情が切なくて、舎蘭さんの「矛盾していいんだよ」って言葉が沁みた😭 最後にお姉ちゃんに抱きつくシーンでほっこり♡ 次回も気になる!
トド村
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