その頃、良輔は引っ越したばかりの二世帯住宅にいた。
あれから良輔と絵里奈はすぐに入籍をした。
実家を建て替えて二世帯住宅にすると言っていた良輔の両親は、たまたま不動産屋に好条件の物件を紹介された。
それは築浅の新築に近い二世帯中古住宅だ。
もうすぐ孫が生まれるというのに建て替えていていは間に合わない。
そう思った良輔の両親は、住んでいた家を売ってそちらの物件を即購入する事にした。
そして室内を全てフルリフォームする。
そのままでも住める状態だったが、リフォームする事によって新築のように生まれ変わった。
そして、先日親子二世帯で引っ越しを終えたところだ。
二世帯住宅へ入る事を、最初絵里奈は渋っていた。
しかし新しく買った家は芸能人が多く住んでいる事で有名な高級住宅街の外れにある。
近くにあるスーパーは高級スーパーで、客はセレブばかりだ。
時にはテレビに出ている有名人にスーパーでばったり会う事もある。
絵里奈はそんな高級感漂う街が気に入ったようで、一緒に住む事を受け入れた。
絵里奈は保健所での母親学級ですでにママ友も出来ていた。
ママ友は皆セレブな妊婦ばかりで、中には有名俳優の妻もいるようだ。
今ではそのママ友達とのランチやショッピングを頻繁に楽しんでいる。
そして、絵里奈はつわりや体調不良を理由にほとんど家事をしていない。
食事は一階に住む良輔の母が作った物を毎日二階まで届けてくれる。
だから絵里奈はママ友と出掛ける時以外は、ほとんどリビングで寝転んで過ごしていた。
そしてセレブなママ友達とのお付き合いに必要だからと、良輔に小遣いをねだるようになった。
良輔は出向先の倉庫では真面目に働いていたが、給料は以前よりもかなり目減りしていた。
だから絵里奈の言いなりになっていると、財政状況がきつくなる。
そこで良輔は徐々に転職へ向けて動き始めていた。
自分は倉庫の雑用係で終わるはずはない。
そう思いながら着々と転職に向けての準備を始めていた。
そしてこの日は日曜日だった。
夕方になると、良輔の母親がいつものように料理を二階へ持って来る。
そして慣れた様子でキッチンへ行くと、息子夫婦の夕食の準備を始めた。
それをちらりと見た絵里奈は言った。
「お義母様、いつもありがとうございますぅー」
こういう時だけは愛想がいい。
そしてわざと大きくなったお腹を見せつけるようにして、義理の母へのアピールも忘れない。
「絵里奈さん、今日は体調大丈夫だった?」
「ええ、それがね、お義母様、今日はなんと赤ちゃんが初めてお腹を蹴ったんですよ!」
絵里奈は嬉しそうに義理の母へ報告する。
「まあそうなの? それは凄いわ…元気な子なのね! ちょっと私にも触らせて!」
母はそう言うと、絵里奈の傍へ来て手のひらを絵里奈のお腹に当ててみた。
そしてしばらくーっとしていたが何の動きも感じない。
「寝ちゃったのかも」
絵里奈が残念そうに言うと、
「そうねぇ…でも赤ちゃんが元気で良かったわ! 今夜は冷え込むそうだから、絵里奈さん身体を冷やさないようにね」
良輔の母は優しく言うと、またキッチンへ戻った。
「お母様、今日のお夕飯は何ですか?」
「あなたの好きなロールキャベツよ」
「やったぁ! お母様のロールキャベツ、絵里奈大好き!」
絵里奈はそう言うと、ソファーから立ち上がってダイニングチェアへ座った。
良輔は二人の仲睦まじい様子を見て、複雑な表情をしていた。
嫁と姑が上手くいっているのは大歓迎すべき事だが、何もかもが上手くいき過ぎていて怖いくらいだ。
凪子との離婚がドロドロしたまま終わっただけに、余計に複雑な気分だ。
果たしてこんなに幸せで良いのだろうか?
しかしその一方で、良輔は凪子と結婚していた頃の刺激ある日々を思い出していた。
第一線の営業マンとしてパワフルには働く自分、そして美貌と才能を兼ね添えた妻。
凪子と結婚していた頃は毎日家に帰る事が楽しみだったが、今はなんとなく足が重い。
全てが上手くいっているのに憂鬱なのはどうしてなのか?
ふとそんな思いが過る。
良輔は深いため息をつくと絵里奈の向いに座り、いつものように母親が用意してくれた食事を食べ始めた。
そんな和やかな雰囲気の朝倉家に、いよいよこの後地雷が投げ込まれるのだった。
コメント
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良輔の不安的中🎯🫤⚡️ いよいよ爆弾が💣朝倉家を襲うーーっ万歳🙌🙌 どんな爆弾がワクワクドキドキ💓 絵里奈の鼻っぱしを木っ端微塵にしてやるよー‼️