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きょうふ
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comi
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#可愛い
トド村
37
天国美の高熱が引き、魔力の暴走が完全に収まってから、数日が経過した。
「魔力の暴走が収まって何よりだよ。さて、それじゃあ天国美の復活を記念して、みんなでシフォンケーキを作ろうか。トッピング用の葡萄とマスカットも用意したよ。」
楓子さんが黒いエプロンを締め、気合十分に腕まくりをしながら私達を取り仕切る。
ありがたいことに、今回は楓子さんの事務所に備え付けてある、そこそこ大きくて立派なキッチンとオーブンを貸してもらえることになった。
「おねえちゃん、楓子さん、あと……ついでに小守。皆さんのおかげですっかり復活しました!!本当にありがとうございました」
すっかり顔色の良くなった私服姿の天国美が、深々と頭を下げてぺこりと感謝を述べる。
「ついでってなんだよついでって」
小守は文句を言うものの、満更でもなさそうだ。
「ふふ、小守さんのおかげで命拾いしましたー。恩に着ますー(棒)」
「棒読みやめろ!!」
いつもの賑やかなツッコミがキッチンに響き渡る。
私達は役割分担しながら、シフォンケーキ作りに取りかかった。
◇
オーブンから甘くていい匂いが漂う。
「なぁ地獄子。このシフォンケーキってさ、170℃のオーブンで30分焼くんだろ?」
小守が型の入ったオーブンのガラス窓にぴったりと顔を貼り付け、シフォンケーキをじっと見つめる。
そのすぐ後ろでは、天国美がジュルリと涎を垂らしそうな顔で、焼き上がるのを今か今かと目を輝かせて待ちわびている。
「そうだけど」
私が返事をすると、小守はドヤ顔で「オレ、すげぇことに気づいちまったぜ……」と言いたげに八重歯を覗かせた。
「じゃあさ、340℃に設定して焼けば、15分で焼き上がるんじゃねぇか!?」
小守の奇論に、天国美が「その手があったか……!」と言わんばかりに感動の面持ちで手を打つ。
「いや、焦げちゃうでしょーが」
私は電動ミキサーで生クリームを泡立てながら、小さくため息をついた。
「そっかぁ、いいアイデアだと思ったんだけどなぁ」
「……まったく、小守先輩は本バカですねぇ」
さっきまで一緒に納得しかけていた天国美が、手のひらを返したようにやれやれと肩を竦めてみせる。
「おめーだってさっき『その手があったか!』って顔してただろうが!?」
小守と天国美がチワワみたいにキャンキャン口喧嘩する。
「……あんたら、ケンカするならシフォンケーキ食べさせないわよ。完成するまであっちで大人しく待ってなさい」
私が冷ややかな視線を向けると、アホ二人組は「……はい」「すんません……」と一瞬で小さくなり、すごすごと事務所のソファの方へと戻っていった。
◇
かくして、特製のシフォンケーキが完成した。
焼き上がった大きくてふわっふわのシフォンケーキに、私がミキサーで泡立てた生クリームをたっぷり添える。
さらに仕上げとして、楓子さんが持ってきてくれた大粒の葡萄と色鮮やかなシャインマスカットを贅沢にトッピングした。
「ケーキにぴったり合う、とっておきの紅茶も用意してあるよ」
そう言って楓子さんがパチンと指を鳴らすと、ポンッ!と煙とともにアンティーク調の豪華なティーセットが一式現れた。
私達は楓子さんの事務所にあるテーブルに、人数分に切り分けたシフォンケーキと温かい紅茶を並べた。
「おねえちゃん、もう食べていいですか!? いいですよね!!」
目の前のケーキを前に、天国美が目を輝かせてそわそわと身体を揺らし、私のお伺いを立ててくる。
「どうぞ」
「やったー!! いただきます!!」
天国美が待ちきれない様子でフォークを伸ばし、一口大きめに口へと運ぶ。そして、うっとりと頬に両手を添えた。
「ん〜〜っ!! ふわっふわです〜〜! 幸せ〜〜っ!」
本当に美味しそうに、幸せそうに表情を崩す天国美。
そんな天国美を見て一人でお粥を食べることすらできず、苦しそうにベッドで横たわっていた数日前の姿を思い出す。
元気になって良かった。
私は隣でそっと目を細めた。
「天国美。実はねケーキをもっとふわふわにする、とっておきの魔法があるんだ。」
楓子さんが悪戯っぽく微笑みながら、自らの唇に細い指をあてた。
「……っ! これ以上ケーキをふわふわにしたら、美味しすぎて死人が出ちゃいませんか!?」
天国美がゴクリと生唾を飲み込む。
「どういう理屈だよ」
小守が呆れ顔で紅茶を一口啜りながら、すかさずツッコミを入れた。
「ふふ、じゃあ行くよ。……レナ・ニ・ワフワフ!」
指先をくるくるしながら、楓子さんが私達のシフォンケーキに向かって呪文を唱える。
……おお、心なしか、ケーキがキラキラ輝いて見える。
天国美が魔法の掛けられたシフォンケーキを再びフォークで掬い、一口食べ――次の瞬間、大きく目を見開いた。
「……爆発しちゃうくらい美味しいですッ!!」
「あんたが言うと、全然洒落にならないわね……」
私は先日の部屋で天国美が危うく大爆発しかけた光景をリアルに思い出してしまい、背筋に冷や汗をかきながら小さく身震いした。
◇
「そういえばよー。こないだ地獄子とママのコレクションルームに行った時、ママのメイド服姿の写真を見つけたんだよなー」
すっかりシフォンケーキを食べ終えた小守が、呑気な声で言った。
「なっ!? ずるいです二人とも!! 私も見たかった……」
天国美が羨ましそうに私達を交互に見つめる。
「楓子さんって、コスプレ趣味もあるんですか?」
興味津々といった表情で、天国美が楓子さんの方を見た。
「……あれは、昔の知り合いに半ば無理やり着せられた時の写真だよ。……正直、思い出したくもない黒歴史さ」
楓子さんが困ったように眉を下げ、どこか遠くを見るような憂いを帯びた表情を浮かべる。
あの楓子さんにメイド服を着せられる人物?
一体何者なんだ?
「……私、思えば恋人なのに、楓子さんのこと何にも知りません。……ねぇねぇ楓子さん、楓子さんの初恋の相手ってどんな人でしたか!?」
ずいっと天国美がテーブル越しに身を乗り出す。
「おっ、オレも気になるなー! ママの初恋相手!」
小守が悪ノリして身を乗り出す。
「はは、参ったな……」
楓子さんが苦笑いを浮かべた。
「えー、教えてくださいよー!」
天国美がさらに迫っていく。と、突然何を思い立ったのか、天国美がバッと私の方に向き直った。
「……じゃあじゃあ! おねえちゃんの初恋はいつですか!?」
「はぁ!? なんで私の方に飛び火がかかるのよ!?」
「いや、でも案外、真実の愛を解くヒントになるかもしれないぜぇ〜?」
他人をからかう時、小守は本当に生き生きとした悪い笑顔を浮かべる。
本当いい性格してるわ、このメスガキは。
「わ、私は……恋とか、そういうのしたことないわよ! 人となるべく関わらないように生きてきたし……。し、強いて言うなら、ま、マカロン様……だけど……」
顔を真っ赤にしながら私がポツリと呟くと、それまで困り顔だった楓子さんが、目を見開いてズイッと身を乗り出してきた。
「マカロン様って……もしかして、あの『魔法少女お料理マカロン』のことかい!?」
その瞬間、私と楓子さんの間に、オタク同士特有の独特の間合いが生じた。
「……もしかして、お好きなんですか? 『魔法少女お料理マカロン』」
「もちろんだとも!!(以下、魔法少女マカロンの魅力について高速で語り出す楓子)」
楓子さんの高速詠唱に、私の中のオタク魂が呼応する。
「本当ですよね!!(以下、魔法少女マカロンの魅力について高速で語り出す地獄子)」
「(魔法少女マカロンの戦闘・作画・物語への考察について高速で語り出す楓子)」
「(それに答えるようにさらに早口でマカロンの魅力を語る地獄子)」
「……なんで恋バナが急に、ディープでニッチなオタクトークになったんだ……?」
あまりの早口と熱量に圧倒された小守が呆然と呟く。
「さぁ……?」
天国美も肩をすくめ、二人は顔を見合わせた。
◇
「……でもそう聞くと、マカロン様と楓子さんって、ちょっと似てますねー」
怒涛のオタクトークが一巡したところで、天国美がぽつりとそう呟いた。
「そうかい?」
「ええ、頼りになるところとか、他人のために平気で自分を投げ出しちゃうところとか、そっくりです」
「……買い被り過ぎだよ。ただ、私が魔法少女マカロンや、誰かを笑顔で助けられるヒーローに憧れて黒魔術で人助けをするようになったのも事実だ。彼女達みたいなヒーローになれたらいいな、と私は思っているよ」
楓子さんがそう言って、少し照れくさそうにはにかんだ。
(私達姉妹にとっては、楓子さんはもうヒーローそのものなんだけどな……)
私が心の中で呟いていると、ふいに天国美が私をじっと見つめてくる。
「……おねぇちゃん。おねぇちゃんは、楓子さんのことどう思ってますか?」
「え? そんな急に言われても困るわよ……。そりゃ、楓子さんはいつも私達を助けてくれるし……頼れる師匠っていうか、あこがれのお姉さん……だとは思うけど……」
しどろもどろになりながら、私は正直な気持ちを答える。
「……ふーん」
天国美がどこか含みのある表情でそう言って、紅茶を口に運んだ。
……何だったんだ、今の質問。
「なぁママ!! ケーキ食ったらまた空飛びたくなった!! 後で空飛んでもいい!?」
小守がわずかな沈黙を壊すかのように、バッと立ち上がってそう言った。
「それもいいね。どうだい? 二人も食後の空中散歩と行こうじゃないか」
「いいですね!! また楓子さんの箒に乗せてもらいたいです!!」
天国美が元気よく立ち上がる。
「よっしゃ、早くいこーぜママ、地獄子!!」
小守がうずうずした表情で急かす。
それから、私達はアパートの屋上から箒に乗って大空へと飛び出し、心地よい夏の風を全身に受けた。
タイムリミットまで、あと30日。
コメント
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読了〜!!第21話、めちゃくちゃ良かったよ…!😭💕 楓子さんと天国美と地獄子ちゃんが一緒にシフォンケーキ作るシーン、ほっこりしすぎて胸がいっぱいになったよ…✨ 小守と天国美の漫才みたいな掛け合い、いつも通りの安心感で思わず笑っちゃった(笑) そしてまさかの“マカロン様”で楓子さんと地獄子ちゃんがオタク高速詠唱始めたとこ、マジでエモすぎて声出た…!! あの一瞬で二人の距離が縮まった感じ、めっちゃ良い意味でニヤけたよ…💖 最後の空飛ぶシーン、夏の風感じる開放感が最高だった…! タイムリミット30日って、すごく気になる終わり方だね…続きが早く読みたい!!